榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

城山三郎の西郷隆盛、木戸孝允、大久保利通に対する人物評が興味深い・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2453)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年1月4日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2453)

シジュウカラ(写真1)、モズの雄(写真2)、ヒヨドリ(写真3)、マガモの雄と雌(写真4)、カルガモ(写真5)、コサギ(写真6)、アオサギ(写真7)をカメラに収めました。

閑話休題、『歴史にみる実力者の条件――対談・人とその時代』(城山三郎著、講談社文庫)に収められている城山三郎と作家や研究者ら5人との対談はいずれも面白いが、より興味深いのは、城山の西郷隆盛、木戸孝允、大久保利通に対する人物評です。

「『維新の三傑』の中で、さまざまな見方もあろうが、わたしは維新の実現にいちばん実質的な貢献のあった実力者として、大久保利通をあげたい。西郷は、ロマンチックな革命家である。破壊力もあり、その面での実行力もある。包容力も大きく、心服する部下も多い。このため、事を起せば、断乎として勝利をかちとり、危機を突破する。徳富蘇峰の表現を借りるなら、『消防火夫の頭』のようで、いざ火事となれば、真先にかけつけて、どんな大火も消しとめてくれる。だが、それだけに、有事でないときには、どこで何をしているかわからぬようなところがある」。

「木戸孝允も、剣の腕は立つし、東西の学に通じている。聡明であり、先見性もある。彼の見通しは、ほとんど適中した、といっていい。維新前には、『大藩割拠』を唱え、志士たちの暴発的な行動よりも、武力財力に富む大藩こそ回天の原動力となる、と割りきる。坂本竜馬の唱えた薩長提携を、具体的な同盟として、十分に練り上げたのも、木戸の功績である。そして、維新が成った後は、一転して、藩意識にとらわれる旧長州藩士を『一小天地』にとらわれるもの、ときめつける。鮮やかであり、柔軟な見識の持主である。育ちもよく、人柄もよく、策謀を弄する人ではない。三条実美とともに、かつがれるにふさわしい人ではあるが、実力者という感じが、大久保にくらべて薄い。ひとつには、木戸があまりにも聡明で、優等生すぎるため、部下に対しても、完璧を求めるきらいがあった。このため、木戸派官僚という言葉もあるくらい、最初は官僚群を統率していたのに、伊藤博文はじめ長州以来の人材まで、木戸を離れて、大久保に鞍替えして行く。伊藤にいわせれば、大久保は、『度量の広い大きい方で、系統とか藩にとらわれぬ』人。人材とともに、情報が大久保のもとに集まる。それに、木戸は理想主義者であり、理想が容れられぬことがあると、健康がすぐれぬせいもあって、政権の座を離れ、京都あたりへひきこもってしまう。あるいは、参議をやったり、やめたりで、自ら権力を手放す形となる。この点は、西郷もよく似ていて、征韓論が容れられぬと、一気に野に下る」。

「大久保はちがった。蘇峰の表現を借りるなら、大久保は、『最善を得ざれば次善、次善を得ざればその次善と、出来る程度において、出来得ることをなす』男である。あるいはまた、西郷が天下有事のときだけとんでくる男であるのに対し、大久保は、火事の有無にかかわらず、毎夜、きまった時刻に回ってくる自身番のような男であった、という。とくに完璧を求めず、投げ出さず、二枚腰でねばる。『反対の声が四方に起っても、毫も恐れず、臆さず、怨まず、決して愚痴をこぼさなかった』と大隈重信もいっている。(二宮)尊徳と同様『猛火背を焼くとも動かず』といった不動の心の持主である。焦らず、あきらめず、毀誉褒貶にとらわれず、黙々と歩み続ける」。

「しかも、大久保は、明治維新二十年説を唱える。維新が容易に完成するものではないと、焦る心を戒め、同時に、十年を区切りとする長期的なプロジェクトも立てる。焦らず、あきらめず、毀誉褒貶にとらわれず、黙々と歩み続ける――事を成すのは、こういう男ではないのか。大久保はまた、自分を投げ出すことができる男でもあった」。

「大久保には、『策謀家』という悪評がある。たしかに彼は、碁を利用して島津久光に近づいたのをふり出しに、王政復古をはじめ、その生涯に大小数々の謀略をめぐらす。悪評もとより覚悟の上であった。それは、ひとつには、彼が自分を売りこむことが、公の利益に一致する、という信念があってのことであろう」。

「大久保は『北洋の氷塊』にたとえられたりしたが、決して血の冷たい謀略家ではなかった。たとえば、謀略が成って、鳥羽伏見で戦端が開かれると、彼は最前線にとび出て行ってしまう。そして、その目で錦の御旗がひるがえるのを見て、涙を流す。この頼りになる男に去られた朝廷は大あわて。岩倉具視らがけんめいに説得して呼び戻す、という有様であった」。

私も予て、三傑の中では大久保を一番買ってきたが、城山の高評価を知って、自信をより深めることができました。