榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

お人好しの伊澤主任、45歳に起こったことは、他人事ではないな・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2500)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年2月20日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2500)

朝から、我が家の上空で、カワラヒワ(写真1、2)、スズメ(写真3、4)が囀っています。

閑話休題、『私はいったい、何と闘っているのか』(つぶやきシロー著、小学館文庫)は、私が選考委員だったら直木賞に推したくなるような、身につまされる小説です。

「私」こと伊澤春男は、8店舗を擁する地域密着型スーパーマーケットのナンバー2の主任です。大原店一筋25年勤続の45歳なので、そろそろ店長になりたいと思っています。ところが、本部から送り込まれてきた、伊澤より5歳若い西口が店長になってしまいます。

新店長の西口が従業員たちから浮いて孤立しているのを見て、お人好しの伊澤は、密かに西口店長好感度アップ大作戦を実行していきます。「西口店長好感度アップ大作戦は、日を追うごとに成果を出していった」。「こうなるよね~。でも、金子君が声をあげたのに少し驚いた。そういや金子君も最近西口店長にべったりだもんな、それまでは私が弟のように可愛がっていたけど」。「あんなに西口店長が担がれているのも私の極秘プロジェクトのおかげだ。じゃあいいじゃないか。私のおかげで西口店長はみんなの人気者になったじゃないか。極秘なのだから誰も知らない、知っているわけがない。じゃあ何なんだこの気持ちは。何だ、見返りが欲しいのか。伊澤副店長が人間関係もすべてまとめていたんですね、さすがですって誰かに言ってほしいのか」。

伊澤は、真面目で働き者と思われていたパートの女性・清水が内引き(内部の人間による万引き)している現場を図らずも目撃してしまいます。伊澤は、清水が改心して内引きを止めることを願いつつ、誰にも言わず見守っていたのに、「伊澤さんについて行きます!』と言っていた部下の金子が本部に報告してしまいます。「『キミね、内引きを知っていて見逃すって犯罪だよ。しかも一回や二回じゃないんだから。そして黙っていてやる代わりに、清水さんに不倫関係を求めたとか・・・』。『それは誓って、ないです』。副社長の言葉を食い気味に否定した。すると、(エリアマネージャーの)岩崎さんが口を開いた。『春男君、副社長も僕もキミのことを信じている。長年の勤務態度から見ても春男君はスーパーうめやの功労者だ。なのに何で犯罪を黙認したんだ。その現場を見たんだろ? 何ですぐに本部に知らせなかった? 西口店長に知らせなかった? 二人でコソコソしていたら変な噂をたてられてもしょうがないだろ』。私は何も言い返せなかった」。これで、伊澤の新店舗の店長に昇格という内定はおじゃんになってしまいます。「清水さん自然治癒大作戦って何だったんだろう。一人密かに清水さんのことを思い、お店のことを思い、良かれと思って頑張ったのに、いつの間に・・・何で私がこんな目に・・・。私は25年勤めたこのお店を去ることになった」。

最後の最後に至り、思いもかけない真実が、それも一つでなく二つも次々と明かされます。実に見事な起承転結です。