『トマスによる福音書』と『ユダの福音書』とは、どういうものか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2517)】
カンヒザクラ(ヒカンザクラ。写真1~4)、カワヅザクラ(写真5~8)が咲いています。カワヅザクラの写真を撮っていたら、その家の主が剪定鋏で枝を切って撮影助手(女房)に手渡してくれました(写真9)。因みに、本日の歩数は11,263でした。
閑話休題、『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』(荒井献・大貫隆・小林稔・筒井賢治編訳、岩波文庫)には、6つの文書が収録されているが、とりわけ興味深いのは、『トマスによる福音書』と『ユダの福音書』です。
「『ナグ・ハマディ文書』とは、1945年にナイル河中流域の町ナグ・ハマディに近いローマ時代の墓で発見されたパピルス写本群のことである。その2年後にパレスチナの死海沿岸で発見された『死海文書』とともに、古代末期のユダヤ教とそこから誕生して間もない最初期キリスト教の研究における世紀の大発見と呼ばれる」。
『ナグ・ハマディ文書』の中で数が圧倒的に多いのが、『グノーシス主義文書』です。「『グノーシス主義』とは、思想史的には初期ユダヤ教の周縁で、歴史的にはキリスト教の誕生と前後して、ただしそれとは独立に成立したと推定される神秘主義的思想運動のことである、その思想上の特徴をひと言でいえば、人間の本来的自己(『霊』)をすなわち『至高神』と考える点にある」。グノーシス主義は、誕生間もないキリスト教と接触し、互いに影響を与え合ったのです。
●『トマスによる福音書』(ナグ・ハマディ写本)
「正統教会の立場(初期カトリシズム)から見れば、この福音書は『異端の書』であり、教会共同体から排除さるべきものであった。実際、この福音書は1945年にナグ・ハマディで発見されるまで、実に千数百年の間、エジプトの地下に隠されていたのである」。「『活けるイエス』がトマスを初めとする弟子たち(ペトロ、マタイ)およびマリハム(マリヤ)に出現して語り聞かせたという言葉を集めたもので、文学ジャンルは語録福音書。正典福音書中のイエスの言葉との比較研究にとってきわめて重要な資料である」。正典福音書とは、『マタイによる福音書』、『マルコによる福音書』、『ルカによる福音書』、『ヨハネによる福音書』の4つを指しています。
●『ユダの福音書』(チャコス写本)
「いわゆる『裏切り者ユダ』こそが真のグノーシス主義者であり、地上のイエスも自分の本質を他の弟子たちにではなく、ユダ一人に啓示したという。イエスが十字架の受難を経て天上の郷里へ帰還するためには、ユダによる『裏切り』が必要であったという逆説。文学ジャンルは神話と対話を含みながら物語性に富む点では、表題どおり福音書と呼べるだろう」。「当福音書におけるユダによるイエスのユダヤ当局への『引き渡し』は、正統教会の見解のごとき、その『裏切り』行為ではない。それはイエスの予告通りに、イエスの肉体を究極的に死に『引き渡す』ことによってその霊魂を肉体から解放し、そうすることによってイエスを人間救済の元型たらしめたのである」。
いささか専門的だが、信頼できる、読み応えのある一冊です。