榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

明治43年の世界一周旅行を臨場感豊かに味わえる本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2524)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月16日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2524)

コブシ(写真1~4)、ハクモクレン(写真5~9)が咲いています。サラサモクレン(モクレンとハクモクレンの交雑種。写真10、11)、モクレン(シモクレン。写真12)、ハナモモ(写真13、14)が咲き始めています。

閑話休題、『世界は縮まれり――西村天囚<欧米遊覧記>を読む』(湯浅邦弘著、KADOKAWA)は、明治43(1910)年4月6日に横浜港を出航した大型貨客船で世界一周旅行を成し遂げた西村天囚の海外観察の記録『欧米遊覧記』を取り上げています。天囚は明治37(1904)年から始まった朝日新聞のコラム「天声人語」の名付け親とされています。

「横浜港を出た一行は、ハワイのホノルルを経由して、アメリカ西海岸のサンフランシスコに到着。大陸横断鉄道でシカゴ、ナイアガラの滝を経て、東海岸のボストン、フィラデルフィア、ワシントンなどへ。ニューヨークから大西洋を渡ってイギリスへ。ロンドンで開催中の日英博覧会を見学。さらにドーバー海峡を渡ってフランスへ。鉄道でイタリア、スイス、ドイツ、ロシアとめぐり、モスクワからシベリア横断鉄道で極東のウラジオストクへ。そこから日本海を渡って港町敦賀に帰着するという壮大な旅であった。・・・総勢57名、104日間という最大規模の世界一周旅行であった」。

「この旅は、100年余りを経た今から見ても、決して色あせてはいない。ワイキキの浜辺、サンフランシスコの夜景、シカゴの喧騒、米国首都ワシントンの静謐、礼節と伝統のロンドン、芸術の街パリ、古代遺跡に囲まれたローマ、活気溢れるベルリンなど、彼らが観察した都市の状況は今にもそのままつながるものがある。そこで出会った人々も印象深い。・・・ホワイトハウスで天囚の手をぎゅっと握ったアメリカ第27代大統領タフト、・・・日露戦争後であるにもかかわらず大らかに一行を迎えてくれたロシアのノーヴォエ・ヴレーミヤ新聞のスヴォーリン社長など」。

「また、荘厳な宮殿や美術館も見逃せない。大英博物館、ヴェルサイユ宮殿、ルーヴル美術館、サン・ピエトロ大聖堂、バチカン宮殿、エルミタージュ美術館など世界の至宝を収蔵する美術館・博物館などの紀行も、そのままガイドブックになりそうな記述にあふれている。自然景観も圧倒的な迫力で迫ってくる。壮大な水煙に包まれたナイアガラの滝、噴煙をあげるヴェスヴィオ火山、山岳鉄道で行くアルプスの山々、広大な草原の続くシベリアの大地。そして彼らを送り出した横浜港の大桟橋や帰着を迎えてくれた敦賀港の埠頭は、まるで父や母のように懐かしい潮の香りを漂わせている。・・・一行が乗車した船舶や鉄道にも興味が尽きない」。

自分も一行の一員になったかのような気分にさせられる、心躍る一冊です。