榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『奴婢訓』には、スウィフト特有の皮肉、諷刺、諧謔がぎゅうぎゅう詰め・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2532)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月24日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2532)

カンヒザクラ(ヒカンザクラ。写真1~5)、ベニバスモモ(写真6~8)、セイヨウシャクナゲ(写真9~12)が咲いています。アオジ(写真13)をカメラに収めました。我が家の庭では、ムスカリ(写真14)が咲いています。

閑話休題、『奴婢訓』(ジョナサン・スウィフト著、深町弘三訳、岩波文庫)には、ジョナサン・スウィフト特有の皮肉、諷刺、諧謔がぎゅうぎゅう詰めです。

どうしたら主人をごまかし欺くことができるか、主人に気取られずに骨惜しみをするにはどうするか、役得をせしめるにはどうしたらよいか――などが、召使たちに向けて得々と述べられているのです。このことは、同時に、召使たちのだらしなさ、自堕落さ、不正直、利己心、狡猾、無精さ、横柄さといった悪習悪癖を微に入り細を穿って暴き立てることになります。

「御主人の呼んだ当人がその場に居ない時は誰も返事などせぬこと。お代りを勤めたりしていてはきりがない。呼ばれた当人が呼ばれた時に来ればそれで十分と御主人自身認めている。あやまちをしたら、仏頂面で横柄にかまえ、自分の方こそ被害者だという態度を見せてやる。怒ってる主人の方から、直きに、折れて来る」。

「コックもバトラア(召使頭)も別当(馬丁)も市場係も、その外お邸の金銭支出に関係のある召使は、主人の収入の全部が自分担当の仕事に当てらるべきもののように振舞うこと」。

「使いに出た召使が必要以上に手間取って、2時間、4時間、6時間、8時間、かそこいら帰って来ないことがよくある。誘惑は強く、木石ならぬ身の抗し難きこともあろうというもの。帰ると、旦那様は怒鳴る、奥様はお小言。裸にするの、ぶんなぐるの、お払い箱だの、お定まり文句。だが、ここで、あらゆる場合に通用する言訳を用意しておかねばならぬ」。

「主人の損になっても商人に味方すること。買物に出された時は決して値切ったりせず、言い値で鷹揚に買い上げる。これは御主人の名誉になることだし、上前がこっちのポケットにころがりこむかも知れぬ。主人が金を出しすぎたとしても、それ位の損は、商人の身に引き較べれば、御主人にとって何でもないこと、と考えるべし」。

「自分が雇われている当面の仕事以外には指一本動かしてはならない」。

「自分が旦那様か奥様のお気に入ってることがわかったら、機会を見て極く穏かに、お暇を頂きたい、と申出てみる。理由を聞かれ、主人の方に手離したくない様子が見えたら、こう答える。御一緒に暮してゆきたいのは山々だが、お邸は仕事が多くて給料はえらく安い。すると、寛大な主人なら、暇は呉れないで、給料を四半期に5志(シリング)か10志増してくれる」。

「昼間ちょろまかすことの出来る旨い物は何でも取っておいて、夜、仲間と楽しむこと。一杯飲ましてくれるならバトラアも入れてやるがよい」。

「三度か四度呼ばれるまでは、行かないこと。口笛一つで飛んで行くのは犬だけだ。旦那様が『誰か』なんて呼んでも、誰も行く必要はない。『誰か』なんて名前のものは居りはしないのだから」。

「皆の衆に一致和合を心からおすすめする。が、誤解してはいけない。お互同士の喧嘩は御随意。唯、旦那様、奥様という共通の敵があり、守るべき共同目的のあることを、夢忘れてはならぬ。年寄の申すことに間違いはない。仲間を陥れようと御主人に告口などする奴は、みんなが腹を合わせて叩き潰してやるべきだ」。

現代でも、時と場合によっては、役に立ちそうなアドヴァイスですね(笑)。