榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『ザリガニの鳴くところ』は、成長小説+恋愛小説+推理小説だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2574)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年5月5日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2574)

スイレン(写真1、2)、ドイツスズラン(写真3)、オオキンケイギク(写真4)、バイカウツギ(写真5)、バナナのような匂いがするカラタネオガタマ(写真6)、ハンカチノキ(写真7~9)、フジ(写真10)が咲いています。隣家では、クリムソン・クローバー(ベニバナツメクサ。写真11、12)、チャイヴ(写真13、14)が風に揺れています。我が家の庭では、ガザニア‘ガズー’(写真15)が咲き始めました。

閑話休題、『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳、早川書房)は、一少女のビルドゥングスロマン(成長小説)であり、恋愛小説であり、そして、推理小説でもあります。この3つの要素を違和感なく巧みに融合させた著者の構想力と筆力には驚かされます。さらに付け加えれば、生物学の知識が下敷きになっている科学小説とも言えるでしょう。

両親からも兄姉たちからも見捨てられ、たった一人で、湿地の畔の小屋で暮らす少女、キャサリン(カイア)・クラークは、孤独と村人からの偏見に苛まれながらも、逞しく成長していきます。ごく僅かな人たちの援助があるとはいえ、その精神的、肉体的、経済的苦境は、読んでいる私も息苦しくなるほどです。

読み書きを教えてくれた優しい4歳年上の村の少年、テイト・ウォーカーに、カイアは淡い恋心を抱くが、大学に進学するテイトは、カイアのもとから去っていきます。カイアの初恋は潰えてしまったのです。

テイトと別れたカイアの心の隙を埋めるかのように近づいてきた村の裕福な青年、チェイス・アンドルーズに、カイアは弄ばれ、捨てられてしまいます。他の女性と結婚したというのに、チェイスはしつこくカイアに付きまといます。

「カイアはくるりと向き直った。『あらそう! でも、私を捨てたのは彼じゃなくてあなたよ! 約束したくせに戻らないで、二度と姿を見せなかったのもあなただわ。手紙で理由を説明することもできたはずなのに、生きているのか死んでいるのかさえ知らせてこなかった。私ときっぱり別れる度胸がなくて、男らしく私と顔を合わせることもできなかった。あなたはただ姿を消したのよ。最低の腰抜けじゃない! それなのに、何年も経ってからふらっとやって来て・・・あなたは彼よりひどいわ。彼には欠点があるかもしれないけど、あなたよりはずっとましよ』。カイアはそこでぐっと息を呑み、テイトを見据えた。・・・帆に吹きつける風が急にやんだかのように、カイアは黙り込んだ。テイトはただの初恋の相手などではなかった。湿地に対する情熱を共有してくれ、文字の読み方を教えてくれた人だった。それに、たとえささやかな縁であっても、カイアの消えた家族とつながりがある人だった。彼は人生の大切な一ページであり、すべて失ったカイアにとって、スクラップブックに貼ることのできる一枚きりの記録だった。怒りが鎮まるにつれ、鼓動が高まっていった。『きみは――とてもきれいになった。すっかり大人の女性だ。無事でやってるのかい? いまも貝を売ってるのかな』。テイトは彼女の変わりように驚いていた。いまだに陰があるものの、顔立ちはいっそう美しくなり、くっきりした頬骨とふくよかな唇が印象的だった」。

「テイトは彼らのそばで高校の恩師二人と話していたため、チェイスのその発言も自然と耳に入ってきた。『ああ、彼女は罠にかかった女ギツネみたいにワイルドさ。いかにも湿地のじゃじゃ馬って感じだよ。ちょっとぐらいガソリン代をかけても行く価値はあるぜ』。テイトは必死で自分を抑え、その場を去ったのだった」。

そんなある日、火の見櫓から落下して死亡したチェイスが発見され、カイアは殺人容疑で収監され、裁判が始まります。

そして、最後の最後に至って、思いもかけない、どんでん返しが待ち構えています。何ということでしょう!