鉄仮面の正体は、元財務卿フーケの従僕だったという仮説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2598)】
シモツケ(写真1、2)、アスチルベ(写真3、4)、アルストロメリア(写真5)、ホタルブクロ(写真6、7)、トウギボウシ(写真8、9)が咲いています。チガヤ(写真10)の穂が風に揺れています。ヤマグワ(写真11、12)、カキ(写真13)が実を付けています。
閑話休題、世界の40の謎に果敢に挑んだ『世界史を変えた40の謎――アンリ四世暗殺からアレクサンドル一世まで(中)』(ジャン=クリスティアン・プティフィス編、神田順子監訳、原書房)で、とりわけ興味深いのは、「鉄仮面の正体が明かされた?」です。
「『一人の男が長年にわたってバスティーユに留め置かれ、仮面をかぶったまま、そこで死にました。彼のそばには銃士2人がひかえ、仮面をはずそうとしたら殺そうと目を光らせていました。彼は寝食の間も仮面をつけたままでした。そうしなくてはならない事情があったのでしょう。なぜなら、そのほかの点では、彼はきわめてよい扱いを受け、住環境も整えられ、望むものはすべてあたえられていましたから。聖体も仮面をかぶったまま拝領していました。彼は非常に信心深く、たえず本を読んでいる読書家でした。だが、彼の正体はだれも知ることができませんでした』。1711年10月10日にマルリ城でこの一部をふくむ手紙を書いたのは、あることないことを想像する噂好きでも、ただの文通魔でもなく、オルレアン公妃としてフランスの宮廷で暮らすエリザベート・シャルロッテ・ド・バヴィエールである」。彼女はルイ14世の弟オルレアン公フィリップの再婚相手です。
1703年に亡くなったこの仮面の男はいったい誰だったのか、さまざまな説が唱えられてきました。これまでに挙げられた説は、ルイ14世の秘密の兄説や双子の弟説を含め約60に上っています。
筆者の結論は明快です。「今日では、不本意ながらこのドラマの主人公となった男の素性はもはや謎ではない。彼の名はウスターシュ・ダンジェである」。
下層階級出身の従僕という、情けないほどの小物であった無名のウスターシュの顔を仮面で隠す必要などあったのでしょうか。「ほんとうのところ、ルイ14世や(大臣)ルーヴォワがウスターシュの仮面着用を命じたことは一度もない。これは、エグジルからサント・マルグリット島への移送のときに(監獄司令官)サン=マルスが思いついたアイディアである。理由は単純だ。ウスターシュは釈放されたとロザンや世間に信じこませるために彼の正体を隠すように、とサン=マルスは指示されていたからだ。(元財務卿という大物囚人)フーケの部屋で(フーケの従僕)ウスターシュの姿を見たことがある兵士たちに、移送される囚人がだれであるかを見破られるリスクは避けたかった。くわえて、仮面には、サン=マルスの威光を高める、というもう一つの有用性があった。1681年以降、サン=マルスは自分の名声に寄与してくれたフーケとロザンという重要な囚人を失い、『エグジルという流刑地』に勤務となった彼の手許に残ったのは無名の囚人2人だけだった。第一近衛歩兵隊の副隊長をつとめたサン=マルスにとって、このような囚人のお守りは役不足であった。秘密漏洩など起こらぬままに5年がすぎた。そして1687年、サン=マルスはサント・マルグリットの要塞司令官を拝命し、2人の囚人のうちの生き残りを新任地につれてゆくよう命じられた」。このサン=マルスというのは、かの有名な近衛歩兵連隊長ダルタニャンの補佐役を務めた人物です。
「自分は、きわめて重要な人物を囚人として監視下に置いている、この者は自分の名前を口にしたら頭に銃弾を撃ちこまれる!・・・秘密めいた囚人が丁重に扱われていると思わせ、過度なほどの厳戒態勢がとられたのは、サン=マルスの芝居だったのだ。謎の囚人について人々が噂すればするほど、サン=マルスの威光は高まった!」。
筆者の説はそれなりの説得力を備えているが、正直に言うと、私は、ハリー・トンプソンが『鉄・仮・面――歴史に封印された男』で示した銃士隊隊長フランソワ・ド・カヴォワの三男ユスターシュ・ド・カヴォワ(ルイ14世の異父兄)説に軍配を上げざるを得ません。