榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

雑誌「話の特集」は、矢崎泰久と和田誠の友情の結晶だったのだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2818)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年1月3日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2818)

我が家の庭の餌台「空中楽園」にやって来るメジロ(写真1~6)、「カラの斜塔」にやって来るシジュウカラ(写真7、8)、スズメ(写真9~13)を観察していると、時間が経つのを忘れてしまいます。

閑話休題、『夢の砦――二人でつくった雑誌「話の特集」』(矢崎泰久・和田誠著、ハモニカブックス)には、「話の特集」というユニークな雑誌をつくった矢崎泰久と和田誠、そして、その仲間たちの熱い思いが籠もっています。

「途中、休刊を経るなど、何度も危機に見舞われたが、読者の根強い人気に支えられ、雑誌は30年続いた。『話の特集』をつくったのは矢崎泰久32歳と和田誠29歳。二人が追い求めたのは『自分たちが読みたい雑誌』だった。二人を中心に築かれたその砦には、あちこちから個性的な才能が吸い寄せられるように集まった。彼らはどんなことを考え、どんな誌面(ページ)をつくったのか。矢崎泰久と和田誠。二人の若き日々をたぐり寄せ、時代の記憶を、あの熱量とともに掘り起こすことができればと願う」。この編者の願いは見事に叶えられています。

矢崎が語っています。「マコちゃん(和田誠)と僕が合意していた『話の特集』という雑誌の中核は、反権力、反権威、反体制の三本の柱。これを芯にしながら、エンターテインメントに徹しようという方針だった。スローガンは『俺たち二人が読みたい雑誌』。『話の特集』は我々にとって『夢の砦』だったんだよ」。

和田は、矢崎をこう評しています。「矢崎さんの回りにあれほど優れた仲間が集まったのは何故か、ときかれることがある。ぼくにはよくわからない。矢崎さんはどんな執筆者でも『先生』とは呼ばなかった。『さん』であり『ちゃん』である。『正しい』編集者とは違う。それを無礼だと怒った人もいただろうし、気楽でいいと思った人もいただろう。気楽派が集まったのも理由の一つかもしれない、矢崎さんの言動はユーモラスで柔らかいが、芯は硬派のジャーナリストである。『話の特集』の特徴であった『反権力・反体制』は矢崎さんの姿勢だ。『話の特集』がなくなった時も寂しかったが、とりわけ日本が危険な流れに呑み込まれる気配のする現在、この雑誌が発行されていない空白を痛感するのだ」。

矢崎は、和田をこう評価しています。「あるとき『マコちゃんみたいな天才は見たことない』と言ったら、不愉快な顔をされた。僕はほんとにそう思ったから言っただけなのに、本人は怒り出したんだ。『自分の思い通りに出来てる仕事なんてそう多くないんだ』と言う。『仕事に満足することなんて、百に一度もない』。天才和田誠は真顔でそう言ったんだよ」。

「話の特集」には、例えば、こんなパロディが掲載されました。<殺しの手帖社版 巴里の空の下 硝煙のにおいは流れる 家中みんなの兇器 こんなとき 殺し屋は どうしたらよいか  結婚生活にあきたひとに、遺産をねらうひとに、あなたの心からあたたかい花束として、この「殺しの手帖」をプレゼントしてあげてくださいませ  おくりものに殺しの手帖を>。

「話の特集」は、矢崎と和田の友情の結晶だったのです。