榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

古代ギリシア人の生活ぶりが生き生きと甦る一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2895)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年3月21日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2895)

我が家の庭の餌台「空中楽園」にはメジロが、「カラの斜塔」にはシジュウカラ、スズメ、ヒヨドリたちが、毎日、やって来ます。時折、キジバトも加わります。

閑話休題、『古代ギリシア人の24時間――よみがえる栄光のアテネ』(フィリップ・マティザック著、髙畠純夫監訳、安原和見訳、河出書房新社)は、紀元前416年4月初めのギリシア・アテネの一日を取り上げて、1時間毎にさまざまな身分や職業の人々の生活を描き、それによって当時のアテネの状況や雰囲気を伝えようというユニークかつ意欲的な試みです。史料を駆使しながら、著者の想像力が遺憾なく発揮されています。

例えば、夜の第8時(1:00~2:00)は「奴隷たちがふざける」、夜の第11時(4;00~5:00)は「鉱山奴隷が仕事にかかる」、昼の第5時(10:00~11:00)は「主婦が愛人と逢い引きする」といった具合です。

●奴隷たちがふざける
「(女奴隷ダレイアとクリュセイスの主人である)アリストパネスは金のために結婚する必要はないし、アテネ政界の有力者などなんとも思っていなくて、いつも劇中で痛烈にやっつけている。・・・不思議なことにソクラテスはアリストパネスとじつに仲よくやっている。ソクラテスの人柄をよく物語る話だ。アリストパネスの『雲』であんな扱いを受けていながら、その後も変わらず友人でいられるのはソクラテスぐらいだろう。・・・奴隷ふたりは(主人の作品)『女の平和』の続きを読みはじめた。・・・(アテネの女性)リュシストラテが集会を開き、男たちが戦争をやめるまでギリシアじゅうの女が膝を閉じたままでいようと提案する、という筋書きは面白いと思ったが、いずれにしても戦いが始まるのは間違いない」。戦争終結を要求して女性たちがセックス・ストライキを行うというギリシア喜劇『女の平和』を読みたくなりました。

●鉱山奴隷が仕事にかかる
「(鉱山奴隷の)デイモコスは袋を肩に担ぎあげ、脇腹の突き刺す痛みにあえいだ。彼はいわば、アテネ帝国の服属国が直面する問題の縮図と言えなくもない。(何十もの銀山がある)ラウレイオンの生み出す銀がなければ、アテネはミュティレネを征服することはできなかっただろう。征服されたミュティレネ人たるデイモコスは銀を掘り、その銀は彼の同族を抑圧するために使われている。エーゲ海の都市国家の貢納によってアテネの軍事力が支えられ、それがさらなる貢納の流入を確実にしているのと同じだ」。アテネは周辺の都市国家を征服することによって、強力な都市国家にのし上がっていったのです。

●主婦が愛人と逢い引きする
「アテネの既婚男性は、売春婦と寝ても、また好きな相手と長期にわたってつきあっても、その相手がアテネのちゃんとした女性市民でないかぎりは違法ではない。しかしアテネの女性は、たとえ未婚であっても、夫以外の男性とキスをしただけで『姦通』の罪を犯したことになる。その基準でいけば、(主婦の)テュマレはいま姦通罪を犯しているわけだ」。男性と女性は平等ではなかったことが分かります。