榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

17人の犠牲者を出し、突然、深海へ消えた第58寿和丸を沈没させたものの正体とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3023)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年7月28日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3023)

小学生・中学生の頃は、夏休みに入ると、母から、涼しい午前中に勉強してしまいなさいよと言われ、現在は、女房から、猛暑だから生物観察に出かけちゃ駄目よと言われるが、一向に言うことを聞かない私。水辺のスズメ(写真1)、コイ(写真2)、トノサマバッタの幼虫と思われる個体(写真3、4)、アブラゼミ(写真5)、ヒグラシの雄(写真6)、ウチワヤンマ(写真7)、不鮮明だが、パトロール中のギンヤンマの雄(写真8)、シオカラトンボの雄(写真9)、ツマグロヒョウモンの雄(写真10、11)をカメラに収めました。サルスベリ(写真12)、コオニユリ(写真13)、ハス(写真14)が咲いています。

閑話休題、読書仲間の只野健さんの書評で知ったドキュメント『黒い海――船は突然、深海へ消えた』(伊澤理江著、講談社)を手にしました。

一気に読み終わった時、真実を覆い隠そうとする者たちに対する怒りに震えながら、松本清張の『日本の黒い霧』を想起しました。米国に忖度する日本という情けない構図が共通しているからです。

2008年6月12日、太平洋上で漁船・第58寿和丸が突然、2度の衝撃を受けて転覆・沈没してしまいます。助かった乗組員は3人、4人が死亡、13人が行方不明という大事故だが、運輸安全委員会が「波による転覆」という結論を出したため、この事故は世間から急速に忘れ去られていきます。

「人は忘れやすい。どんなに耳目を集めた出来事であっても、潮が引くようにニュースは減り、世間の関心は薄れていく。17人の乗組員が犠牲になった第58寿和丸の事故もまさにそうだった」。

事故から11年後の2019年秋、ひょんなことから、この事故を知り、「波」という原因に疑問を抱いた著者・伊澤理江の関係者への粘り強い聞き取り行脚が始まります。

「第58寿和丸は波ではなく、何らかの要因で船体が損傷したのではないか。考えれば考えるほど、自力で調べれば調べるほど、この『疑念』が明確な姿となって見え始めていく」。

「第58寿和丸事故の資料を集めていた私は、この横浜の『(海難審判庁横浜地方海難審判)理事所』が真相解明に向けた重要なカギを握っているはずだと考えていた。横浜の理事所は、生存者3人や僚船の乗組員たちからの事情聴取、現場の気象状況や海況などの事実に基づいて、事故原因は波によるものではなく、船体が何らかの損傷を受けたことが原因ではないかと推察していた節があるからだ。しかも彼らは潜水艦との衝突も視野に入れていた」。

「船舶事故調査の後継組織・運輸安全委員会の事務方のトップは事務局長だ。国交省の官僚が務める」。

「どうやったら、こんな(波による転覆という)内容の報告書ができあがるのか」。

「(第58寿和丸を所有する)酢屋商店社長の野崎哲は、運輸安全委員会の調査プロセスは『どうやったら波で転覆させられるか、一生懸命考えているようだった』と取材に語った」。

「取材の記録や資料などが、次第に私の手元に積み重なってきた。報告書の内容が生存者らの証言と一致していない実態は、明確になった。しかし、報告書の内容が生存者らの証言と違っているというだけでは、十分ではない。もっと確実な『何か』をつかむ必要があった。それがないと、取材は先に進めない」。

「ここに至って私は、潜水艦と軍に精通する人々への取材に手を付けた。すると、軍事大国が人知れず海中で繰り広げている潜水艦の隠密行動と民間船舶の接点が想像以上に多いという知られざる実態が次々と浮かび上がってきたのだ」。

「実際、潜水艦による事故を隠そうとし、その後に露見してしまった日本船絡みの事例がある。1981年4月9日に発生した貨物船『日昇丸』と米原子力潜水艦『ジョージ・ワシントン』号の衝突、当て逃げ事件だ」。

「元外交官は続ける。『第58寿和丸が潜水艦と衝突したのだとすれば、その国は普通に考えればアメリカでしょう。当時の国際情勢から言っても、あの海域で活動していた潜水艦は日本とアメリカです。それにアメリカなら隠し通すということは十分あり得る。日本近海でアメリカの艦船が事故を起こし、多数の民間人が犠牲になったという事実が公になったら、在日米軍基地(の整理・縮小)問題に発展しかねない。アメリカなら隠そうとしますよ。潜水艦は軍事機密だから公文書も表に出ません。機密は絶対。軍人は退役しても喋らない。戦争をする国とそうでない国では、機密のレベルが全然違うんです』」。

「『セイルが第58寿和丸にぶつかり、潜ろうとして振り上げた縦舵がまた船体にぶつかった。潜水艦が原因だとしたら、その当たり方しかない』という元潜水艦隊司令官・小林正男の言葉が蘇ってくる」。

「情報公開をめぐる裁判と並行し、私の取材は今なお続いている。第58寿和丸の事故は潜水艦との衝突によって引き起こされた可能性が高いと判断している私の前には、軍事機密の高い壁がある。相手の国名や艦名を特定する取材は容易ではない。しかし、歩みがじれったいほど遅くても、壁を登っていく試みは放棄しない」。伊澤よ、頑張ってくれ! どこの国の何という潜水艦が、これほどの「事件」を起こしながら、図々しくも口を拭ってのうのうとしているのか、そして、外交問題化することを恐れ、許せないことだが犯人追及を妨害した日本の腑甲斐ない責任者は誰か――を突き止めてくれ!