胃弱こそが、夏目漱石に『吾輩は猫である』を書かせた原動力だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3179)】
カワセミの雌(写真1)、ジョウビタキの雌(写真2、3)、カワラヒワ(写真4)、アオジの雌(写真5、6)、ハクセキレイ(写真7)、ツグミ(写真8)、アカゲラの雌(写真9~14)をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は11,445でした。
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閑話休題、『集中講義 夏目漱石――「文豪」の全身を読みあかす』(阿部公彦著、NHK出版・別冊NHK100分de名著)では、夏目漱石の5作品――『吾輩は猫である』、『三四郎』、『夢十夜』、『道草』、『明暗』――について、阿部公彦の独創的な見解が展開されています。
●『吾輩は猫である』の「胃弱」
「『吾輩は猫である』で精彩を放っているのは、あちこちに挿入されるエピソードや議論、うんちくだと言えるでしょう。小説というよりは虚構的な舞台で展開される一種のトークショー。苦沙弥先生宅が『サロン』と化し、そこにいろんな人たちが出入りして、あれこれ議論を繰り広げるのです。そうした人物たちを猫が観察しつつ、猫自身もまた自分の考えや感慨を述べていく」。
「そもそも『吾輩は猫である』は『胃弱』への意識やこだわりを要請する作品として書かれたのではないでしょうか。『胃弱』こそが作品の原動力だった。『胃弱』という病なしには『吾輩は猫である』は作品として成立さえしなかったかもしれません」。
阿部は、「胃弱」は人間の弱さを象徴しているというのです。
●『三四郎』と歩行のゆくえ
「三四郎は歩き、謎と出会う」。
阿部は、『三四郎』を成長物語と見做しているのです。
●『夢十夜』と不安な眼
「『夢十夜』では従来の小説の約束事から逸脱することで、短いスペースで驚くほど意外性に富んだ世界を示しています。講談、怪談話、落語など語り物の伝統にのった『第四夜』の蛇遣いの爺さんの語りのリズムなども含めて、小説というジャンルに住み着くと見せてあえてそこからはみ出すような実験性が、いたるところに見て取れるのです。そうしたところにこそ注目し、『あれれ。ここ変だよねえ。おもしろいねえ』と漱石の遊びっぷりを味わうのもいいのではないでしょうか。『夢十夜』はこんなメッセージを発しているように思います。力を入れすぎるのはやめよう。しばりをといてみると、物語の世界ではいろんなことが起きうるのだよ、と」。
●『道草』とお腹の具合
「漱石が『オレだって、自然主義やれるぞ!』とばかりに書いた作品との見方もそれほど間違っていないかもしれません。ただ、実際に『道草』という小説を読んでみると。『なるほど自然主義的な作品ですね』だけではすまないところがあります。自伝的小説というレッテルからはみ出す部分がけっこうある。そして、そこがまさに旨味にもなっている」。
●『明暗』の「奥」にあるもの
「(登場人物たちの)描き分けの妙味がとてもよく発揮される箇所として是非注目したいのが、作品中にこれでもかと出てくる人物同士の対決の場面です。『明暗』は『対決小説』あるいは『バトルロイヤル小説』としても読めるのではないかと思います」。
阿部の見解に全面的に賛成というわけにはいかないが、こういう読み解きもできるのかと勉強になりました。