松本清張の北一輝評価、学歴差別への怒り・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3387)】
アメリカフヨウ(写真1~3)、モミジアオイ(写真4)が咲いています。私の生物好きを知っている東京・青梅に住む妹が、マンションの庭で、のんびりと毛繕いするタヌキ一家の動画を送ってくれました(写真5~10)。
閑話休題、松本清張は、その作品も生き方も私の敬愛の対象です。そんな私にとって、『松本清張の昭和史』(保阪正康著、中央公論新社)は見逃せない一冊です。
個人的に、とりわけ印象に残ったのは、●清張の昭和史研究が果たした役割、●清張の北一輝評価、●清張の学歴差別への怒り――の3つです。
●清張の昭和史研究が果たした役割
①史実を基に実証的にわかりやすく説明している。
②調査、取材、分析などで従来の手法を超えた。
③演繹的見方からくる思想的解説からの脱却。
一言で言えば、現実の風景の背後に隠されている本質は何か、を私たちに教えてくれたと言えるでしょう。
●清張の北一輝評価
「北について、松本は『北一輝の思想的生涯は未熟と浮動の一語に尽きる』と決めつけている。そして北の思想やその軌跡を分析していくが、『北を超国家主義の大物視するのは誤りである』と断言し、二・二六事件がなければ大川周明にははるかに及ばず、<右翼の事件屋>程度で終わっていただろうともいう。北個人には事件は悲劇だったが、『誤解に満ちた評価を受け、誤解に飾られた評伝を書かれたことにより栄光をうけたことになる』と書く」。
そして、次の指摘には、目から鱗が落ちました。「(松本は)北のなかに潜んでいる日本的な装いをした、右翼、左翼の両翼を超えた革命理論を見抜いていたのではなかったか。日本の右翼陣営が持っている天皇論、天皇制というものとは矛盾した形を松本は見たのであろうし、それだからこそ二・二六事件の最大の失敗は(昭和)天皇の反撃であったということになる。天皇はその意味を知っていたと分析するのである」。昭和天皇、そして、清張、保阪正康の眼力に驚愕至極!
●清張の学歴差別への怒り
「松本の原点は、実はこの怒りにあるということだろう。松本はサラリーマン時代に西部本社から東京本社に転勤する役員クラスの送別会で、社員ひとりひとりに杯をむけていくその人物から『君はいいんだ』と無視されたときの屈辱を忘れないと書いている」。実は、私も全く同じ扱いを受けたことがあるので、この一節には息を呑みました。北九州出張所の所長交替の宴席で、所員ひとりひとりに杯をむけていく新所長から、前所長に目を掛けられていた所次長の私と後輩Tの2人だけが無視されたのです。その日から、入社後初めての逆境生活が始まったのです。