榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

宮本常一の『忘れられた日本人』所収の「土佐源氏」は創作だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3446)】

【読書の森 2024年9月19日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3446)

綿毛のようなものがノコノコ歩き出したではありませんか。アオバハゴロモの幼虫(写真1~6)たちです。ハグロトンボの雌(写真7~9)をカメラに収めました。

閑話休題、『宮本常一と土佐源氏の真実』(井出幸男著、梟社)には、驚くべきことが書かれています。本書の著者・井出幸男は、民俗学の金字塔とされる宮本常一の『忘れられた日本人』に収められている「土佐源氏」は民俗学的な著作ではなく、宮本の創作、すなわち文学作品だと主張しているからです。

宮本は生涯を終えるまで、『土佐源氏』は事実であり、それをそのまま記述した「民族誌」、「生活誌」だと言い張ったが、井出の主張は長期間に亘る調査・研究に基づいているので、強い説得力があります。客観的に判断して、井出に軍配を上げざるを得ません。

●「土佐源氏」の原形をなす作品「土佐乞食のいろざんげ」は、当時、地下秘密出版物として扱われた雑誌に掲載された。

●「土佐乞食のいろざんげ」の性器の俗語が頻発する性愛表現は、そのほとんどが「土佐源氏」では切り捨てられている。

●網野善彦も、「『土佐源氏』については、宮本さんが多少の創作をされていることは明らかになっています」、「実は主人公は乞食ではなく山本槌蔵さんという馬喰で・・・乞食ではなかったことが現在では確認されています」、「『文学作品』と『民族誌』との関係で、考えるべき重要な問題があります」と記している。

●井出は、「『土佐源氏』は間違いなく宮本常一が生み出した『文学』であり、『土佐源氏』の主人公の本当の実像、それはほかならぬ宮本常一その人に通じるものということになろう」と、結論づけている。

巻末に、「土佐乞食のいろざんげ」の全文と、山本槌造の三女・下元サカエへの井出らのインタヴューが収録されています。下元の知る父・山本の実情と「土佐源氏」の記述との隔たりは大きいことが明らかにされています。

驚くとともに、民俗学とは何かを考えさせられました。