文章とイラストが読む者を浮き浮きさせる、安西水丸の紀行エッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3487)】
キセキレイ(写真1~3)、ムクドリ(写真4、5)、ダイサギ(写真6)、アオサギ(写真7)をカメラに収めました。ガマズミ(写真8、9)、トキワサンザシ(写真10、11)が実を付けています。隣家の女主がカキ(写真12)を一枝折ってくれました。美味でした。
閑話休題、『地球の細道』(安西水丸著、エーディーエー・エディタ・トーキョー)は、安西水丸の文章とイラストが読む者を浮き浮きさせる、国内・海外の紀行エッセイ集です。
●殺生関白秀次の残した近江八幡の輝き
無能でアブノーマルな人物とされている豊臣秀次だが、近江八幡の町造りを見る限り、実に有能だと評価しています。
●足袋の町にはかつて難攻不落の名城があった
豊臣秀吉の関東攻略戦において、落城しなかったのは、小田原城に出兵中の城主・成田氏長の妻と娘、それに3000人足らずの士卒が籠城した忍城ただ一つでした。忍城の天正年間の平面図を見ると、まるでパズルのように、広い沼に点在する微高地を巧みに結びつけて中核部としていると驚いています。
●左甚五郎の謎、左甚五郎から学ぶもの
左甚五郎の有名な、日光東照宮の「眠り猫」はさほど優れているとは思えないと辛口です。クリエーターの人気というものは上手い下手ではなく、その人物の名前とか、謎めいた部分がつくり出す得も知れないムードにあるのではないか、左甚五郎から学ぶところはそんなところだろう、何も上手いばかりが全てではないのである――と本音を漏らしています。同じことがビジネスパースンにも言えるかもしれませんね。
●築城名人、加藤清正に両角(飯田覚兵衛、三宅角左衛門)あり
加藤清正の人気は、築城術を含む軍事一辺倒の男ではなかったところにあるというのです。治山治水にもその能力を十分に発揮し、あちこちに堤防を作り、新田の開発も行っている、つまり住民のために多大な努力をしており、農業土木のエキスパートでもあったのだ――と絶賛しています。
●はじめての中国、国際都市上海の旅
私が生まれた上海の日本人租界地域について、いろいろなことを知ることができました。余談として、私にとっては大変興味深いことが記されています。「二〇代の頃の八年間ほどを三鷹市の井の頭に住んだが、わが家の西隣に石井はなという老婦人が住んでいた。この人がゾルゲの愛人だった女性だと知ったのは井の頭に住んで三年程すぎた頃だった。なかなか厳しい女性で、ぼくの家の木の枝が石井宅にはみ出したことで注意されたことがあった。もちろんすぐに伐採した」。
●南国土佐でおもったこと
土佐の代表的な民謡「よさこい節」の歌詞にある「坊さんかんざし 買いよった」の背景には、実際に高知城下で起こった僧侶(五台山竹林寺南の坊主職・純信、37歳)の20歳年下の娘(五台山下の鋳掛屋の娘・お馬、17歳)との駆け落ち事件があるらしい、と書かれています。ご両人、なかなかやるじゃないか。
●石見銀山の間歩を歩く
徳川家康に重用され、全国金銀鉱山の総支配役となった大久保石見守長安は、死後に、生前の不正蓄財が発覚します。松本清張に『山師』という短篇小説があり、長安について見事な心理を描写していると、本書を推薦しています。早速、私の「読みたい本」リストに加えました。
安西は、文章もイラストも独特の味があって、いいなあ。