思想統制下、思想犯とされた男を愛してしまったとき、あなたならどうする・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3503)】
あちこちで、キクが咲いています。因みに、本日の歩数は11,348でした。
閑話休題、『石や叫ばん―― 一九二〇年代の精神史』(秋山豊著、之潮)を読み終えて、感じたことが3つあります。
第1は、私と同年齢の著者に対する讃嘆の念です。
著者の父は、若い時、共産党の大立者・徳田球一の秘書を務めた社会主義者です。父の妹、その夫も社会主義です。著者は、彼らの日記や手紙などを駆使して、彼らの人生を丁寧に辿っていきます。困難な作業を重ねて本書にまとめ上げた著者の努力には頭が下がります。
第2は、自分の信念に忠実に生きることの大切さと難しさを痛感したことです。
思想の自由が許されず、共産党が非合法とされた時代に、自分の信念に基づき社会運動、労働運動を実践することの困難さが、臨場感豊かに再現されています。社会主義がそれを信奉する人々の希望の灯であり得た時代環境を考慮する必要があります。
第3は、自分が信じる主義に殉じようとする29歳の男と、そういう思想的背景のない小学校教師の24歳の女が出会い、愛し合ったとき、自分ならどうするだろうかと考えさせられました。
あくまで信念に忠実であろうとする男に、女が送り続けた手紙には、愛する者の思いが籠もっています。そして、厳しい環境下に置かれた苦渋に満ちています。
「長三郎様、私は前にも申しました通り貴方の思想は決して悪くはない事を信じてゐます。世の人は共産主義といへば国家を冒す、大罪悪人の様に思つてゐます。併し私は以前からそんなに悪いものとは思つてゐませんでした。それは主義の何物かは知らず只私が貴方と云ふ人を愛してゐるばつかりにその愛人の抱いてゐる思想なるが故に何んとなく好きだつたのです。それが約一年の貴方との接触によつて与へられた様々の知識によつてます〱(ます)それが高められ今は私も早く斯様な社会になしたい希望で燃えてゐます。私は自分の意志のまゝに振舞へない程の人間ではあり、又境遇や環境に支配されて直接にそれの運動には当られません。併し出来るだけ勉強して少しでもそれの知識を増し、理解の出来るやうになりたいです。そして出来るだけ応援したいと思つてゐます」。
心ある人々に広く読まれてほしい著作です。