榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『枕草子』の瑞々しい現代語訳のおかげで、華やかな定子のサロンの一員になったかのような気分を味わうことができました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3554)】

【読書の森 2024年12月28日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3554)

カシラダカ(写真1)、ムクドリ(写真2、3)、ヒヨドリ(写真4)、コサギ(写真5)をカメラに収めました。宵の明星の金星(写真8)が輝くもと、町会の歳末パトロールに参加しました。お母さんと参加した小学2年の女子Nちゃんも、拍子木を打ち鳴らし、元気よく「火の用心!」。拍子木は澄んだ音を出す精巧な打楽器ですね!(写真9~16)。因みに、本日の歩数は13,667でした。

閑話休題、『枕草子』(清少納言著、佐々木和歌子訳、光文社古典新訳文庫)の瑞々しい現代語訳のおかげで、華やかな定子のサロンの一員になったかのような気分を味わうことができました。

後宮の定子のサロンは、機知に富んだ、笑いの絶えない先進的かつ魅力的な存在でした。それは、サロンの主宰者であり、清少納言が女官として仕える定子の資質によるものです。その定子と清少納言のやり取りが、「一七七 宮にはじめてまゐりたること」では、このように描かれています。<宮さまが何かお話ししていた流れで、「私のこと、好き?」と聞いてきた。「当然です」と答えたとたん、へっくしょ。台盤所の方でだれかがとても大きなくしゃみをした。不吉の前兆。「・・・ということは、ひどい。あなたの言葉はウソね。もういい」と言って、宮さまは奥に入ってしまった。「どうしてウソなんてことがあるの。好きなんてものじゃないのに。くやしい。あのくしゃみこそウソに決まっている」と私は絶望した>。

絢爛たる大輪の花が開いた観がある定子のサロンも、定子の後ろ盾の父・藤原道隆の急死によって、暗い影が差してきます。定子の管理下にあるプロジェクトとして書き始められた『枕草子』は、この凋落の最中も書き継がれました。それはなぜか。定子のサロンの素晴らしさを清少納言は『枕草子』に深く刻み付けたかったのでしょう。訳者・佐々木和歌子は、「たしかに私たちは政治では負けた。でも、私たちはカルチャーの勝者。これほど笑うサロンは他にある? これほどみんなに愛されたサロンは他にある?」と、清少納言の気持ちを代弁しています。

個人的に、とりわけ興味深いのは、男性と過ごす一夜の有様が生々しく描写されていることです(「六一 暁に帰らむ人は」、「七〇 しのびたる所にありては」)。

また、清少納言が10代で橘則光と結婚して則長を儲け、藤原棟世と再婚して小馬命婦を産んだこと、そして、離婚しても則光とはいい関係にあったことには驚かされました。<私と則光が「いもうと」「お兄さん」と呼び合うのは、主上までみんなに知れ渡っていて、殿上でも則光は官名では呼ばれず、「お兄さん」というあだ名を付けられていた>(「七八 頭中将のすずろなるそら言を聞きて」)。

娘の小馬命婦が、定子を不幸に陥れた藤原道長の娘・中宮彰子に仕えたことには、意外な印象を受けました。

教科書で「一 春はあけぼの」しか学ばなかった人には、ぜひ、読んでもらいたい一冊です。