最も治療が困難な膠芽腫という脳腫瘍の治療薬開発を巡る迫真のドキュメント・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3854)】
【読書の森 2025年10月11日号】
情熱的読書人間のないしょ話(3854)
『がん征服』(下山進著、新潮社)は、最も治療が困難な膠芽腫(こうがしゅ)という脳腫瘍の治療薬開発を巡る迫真のドキュメントです。同時に、膠芽腫の有望とされる治療薬開発の問題点を鋭く指摘しています。
●膠芽腫は、グレイド4の場合は平均余命15カ月という治療が非常に難しい脳腫瘍である。
●膠芽腫は、手術、従来の抗がん剤、放射線療法に続く画期的な療法――血管新生阻害剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤――も奏効しないため、治療が難しい。
●遺伝子改変ウイルスC47Δ、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、光免疫療法などが膠芽腫の治療薬として期待されている。
●藤堂具紀医師が開発した遺伝子改変ウイルスのG47Δ(デリタクト)は、再生医療等製品という審査の仕組みを抜け目なく利用することによって、僅か19例のフェーズ2の、それもシングルアームの治験(単群試験)だけで承認されている。そして、フェーズ3のランダム化比較試験を頑なに拒否している。一言で言えば、デリタクトは、その有効性が未だ証明されていないのである。
一日も早く、難しい疾病の治療法が確立されることを切に願っているが、根本ルールからの逸脱は許されないという著者の主張に、医薬品業界に長らく携わってきた私は全面的に賛成です。