榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

人間の「しんじつ(真実)」とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3930)】

【読書の森 2025年12月24日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3930)

隣家の女主が持ってきてくれたセンリョウを花瓶へ。私の流派は自然無心流(笑)。因みに、本日の歩数は7,579でした。

閑話休題、『山本周五郎――岡場所の女たち』(山本周五郎著、あけび書房)に収められている『つゆのひぬま』の結末では、胸が熱くなってしまいました。

「岡場所」とは、幕府公認の遊郭以外の非公認の遊郭を指しています。

岡場所の娼家「蔦屋」の娼婦、20歳のおぶんと、客としてやって来た良助。「良助という名も、年が二十六だということも、それから三日めの晩、つまり二度めに来たとき、聞いたのであるが、こんなところには馴れていないらしく、自分でてれているようすや、口の重い、温和しそうな人柄がおぶんの心に残った――彼は痩せているというより、疲れきった人のようにみえた」。

おぶんは、手洗いに立った良助が夜具の下に隠していた風呂敷包の中身が匕首であることに気づき、違う場所に隠してしまいます。良助に悪いことをさせまいと考えたのです。「『大丈夫、あたしが預かったわ』とおぶんが(良助を)なだめるように云った」。

25歳になる姉さん格のおひろが「おぶんのほうは見ずに『ゆうべのお客のことなんだけど』と口ごもり、ふいと眼をあげて『あんた好きになったんじゃないの』と訊いた」。そして、「『あたしはしょうばいをはなれて云いたいことがあるの』とおひろは云った、『こういうところへ来る客にはしんじつがないってこと、あんたも知ってるでしょ』」。

おぶんに親切にされて、良助はやろうとしていた押し込み強盗を思い止まります。

夜中の2時頃、急激な洪水のため、おぶんとおひろは屋根の上に避難します。その時、小さな平底舟でやって来たのは・・・。

人間の「しんじつ(真実)」について考えさせられる作品です。