榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

我々の仕事はAI(人工知能)に取って代わられてしまうのか・・・【続・リーダーのための読書論(74)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2017年5月8日号】 続・リーダーのための読書論(74)

AIの実力

2013年にオックスフォード大学のAI研究者が発表した論文「雇用の未来――コンピューター化によって仕事は失われるのか」がビジネスパースンの間で話題に上ったことは、未だ記憶に新しい。本当に、我々の仕事はAI(人工知能)に取って代わられてしまうのだろうか。

この疑問に対する答えが知りたくて、『人工知能が変える仕事の未来』(野村直之著、日本経済新聞出版社)を手にした。

「2045年に知性の総量でAIが人類を上回るとするいくつかのシンギュラリティ論については、きわめて懐疑的に思います。『生物が自らを進化させたように、AIがAI自身を全然違う知性を発揮できるように自らを進化させる』(たとえるなら言語を獲得するなどの根本的進化)という言い方をする一部のシンギュラリティ論者さんたちには、『ダーウィンの自然淘汰説によれば生物は自らを設計、進化させたことはないはずですが』と言いたいです」。

「AIについて勘違い、誤解にもとづく過度な期待(怖れの裏返し!)もせず、かといって決して軽視もせず、積極的に人々の幸福のためにAIを採用、活用するのが正しいアプローチではないでしょうか」。

ディープラーニング

「そもそもディープラーニングの代表格、CNN(畳み込みニューラルネット)やRNN(再帰型ニューラルネット)が目下得意とする『パターン認識』は、人の脳内の思考を模した人工知能というより、目や耳からの刺激が何であるかを忠実に判定する視覚、聴覚の能力です。『意思』や『目的意識』『価値観』、因果関係などの『推論』、これらに基づく、『理由付け』などが一朝一夕にできるものではありません。まして、人間の脳と同じ働きの機械を作ろうとするなら、この『強いAI』は、『自意識』や、『好奇心』、飽きや反感、衝動を含むあらゆる本物の『感情』、責任感、猜疑心、同情や、皮肉や当てこすりを含む多彩な言語行為、相手の口惜しさ、負け惜しみ、プライドを独創的な方法で活用する能力なども必要になってきます」。

「人と接して交渉し、納得してもらい共感を得て合意に至る、というプロセスが今日多くの仕事で必要です。このような人間の仕事については、表面的な対話データの模倣により、ある程度は人工無能(有限オートマトン制御)のAIで代行できる部分もあるでしょう。しかし、例外的な事態、まったく初めて遭遇する事態でも、深い理解によって適切に対応できるようなAI、ロボットが誕生する具体的な技術的目途がたっているとは到底いえない状況です」。

「なぜ?」と問え

AI時代を迎え、我々は、どうすればいいのか。「普通の人がAIに使われずにAIを鍛え、使う側、すなわち、新しい知識や業務そのものをモデル化してその効果を検証する創造的な業務にシフトするカギは、『なぜ?』という自問自答にあります」。「一個人としては、『なぜ?』と問い、考えることで簡単にAIに勝ち、AIを使いこなして、質的にも量的にも優れた成果を出せるようになるのです」。AIにまつわる悲観論に惑わされず、「なぜ?」と問い続けよう。