榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

野生オオカミの群れの一匹となった男の記録・・・【山椒読書論(130)】

【amazon 『狼の群れと暮らした男』 カスタマーレビュー 2013年1月23日】 山椒読書論(130)

私は、1905年まで日本にも棲息していたオオカミ(ニホンオオカミ)という生物が大好きだ。しかし、『狼の群れと暮らした男』(ショーン・エリス、ペニー・ジューノ著、小牟田康彦訳、築地書館)の著者、ショーン・エリスの常軌を逸したオオカミ好きには、開いた口が塞がらなかった。

英国の農場で野生動物に親しみを感じながら育ったエリスは、米国アイダホ州のネイティヴ・アメリカン、ネズパース族が管理する飼育オオカミ(シンリンオオカミ)の群れに交じり、オオカミ一家の一員(一匹)として受け容れられる。オオカミたちが課す過酷な入団テストに合格し、低位(群れの中で順位が低い)オオカミとして、オオカミたちから認められたのだ。

ここからが凄いのだが、彼は、その後、野生オオカミ(シンリンオオカミ)との接触を求めて、ロッキー山脈の森の中に単身、乗り込む。飢餓と恐怖、孤独感に苛まれながら、遂に、野生オオカミの群れと接触することに成功する。仲間として受け容れられた彼は、2年に亘り、オオカミたちと生活を共にする。当然のことながら、その間の食べ物は、仲間のオオカミたちが狩りで仕留めた動物の生肉である。もっとも、群れの中で最下位の彼に与えられるのは、上位のオオカミたちが食べた後の残り物である。

この後、ポーランドの自然動物園で飼育オオカミ(ヨーロッパオオカミ)とも寝食を共にするなど、オオカミ漬けの生活を続ける。

彼がここまで徹底するのはなぜか。人間にオオカミのことを正しく理解してほしい、そして、オオカミが存在する自然は生態系が豊かであり、人間とオオカミは共存できるということを伝えたいというのだ。

オオカミに育てられた、言葉をしゃべれない子どもが森からオオカミのように這い出てきたという事例はあったが、このように、長期間、野生オオカミたちと一緒に食べ、行動し、眠ったのは、彼が初めてだろう。

オオカミの群れには、アルファ(統率役)・オオカミのほかに、ベータ・オオカミとしてエンフォーサー(用心棒役)とテスター(品質管理役)がいて、その下に高位、中位、下位のオオカミたちがいる。そして、別格としてオメガ(喧嘩仲裁役)・オオカミが加わっているなど、オオカミ好きにとっては興味深い観察記録ともなっている。