榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

5分で世界遺産一つひとつのエキスが味わえる・・・【山椒読書論(152)】

【amazon 『世界遺産 心の旅』 カスタマーレビュー 2013年3月8日】 山椒読書論(152)

世界遺産 心の旅』(NHKサービスセンター編集、ステラMOOK・NHKサービスセンター)は、5分で世界遺産一つひとつのエキスが味わえる魔法の本である。

「祈りの道」「一途な想い」「心を開く、思想を拓く」「栄光のかたち」「暮らしの叡智」「時の謎」「生き物の鼓動」の7部構成で100の世界遺産の魅力が、印象的な写真と文章で紹介されている。

この中から、私の世界遺産ベスト7を選ぶと、「天使の奇跡=モンサンミシェルとその湾(フランス)」「仙人が住む山=三清山国立公園(中国)」「大平原の母=ナスカの地上絵(ペルー)」「浮島の都=ベネチアとその潟(イタリア)」「美の都をあるく=フィレンツェ歴史地区(イタリア)」「孤島の巨石像  モアイ=ラパ・ヌイ国立公園(チリ)」「よみがえった古代都市=ポンペイ遺跡(イタリア)」となる。

例えば、「ベネチアは、118に及ぶ小さな島々を、400の橋で繋ぎ合わせた寄せ木細工のような街なのだ。島と島を貫く道路はなく、複雑な小路が迷宮都市のような魅力的な雰囲気を醸し出している」と記されている。実際に、日向になったり陰になったりしている入り組んだ石畳の路地や、ゴンドラが行き交う運河に架かっている小さな橋を歩き回っていた時、迷宮に入り込んだような錯覚に襲われた経験を懐かしく思い出す。

「世界遺産の謎の象徴ともいえる石像モアイはおよそ900体ある。諸説をまとった巨大な石像彫刻は今も静かに孤島にたたずんでいる」。

ポンペイの「街の様子が生き生きと残っていることも驚きだが、(火山ベスビオの噴火による)『最後の瞬間』を迎えた人々の姿が、まるで時が止まったかのように残されていることが胸を打つ。寄り添うような4人の家族、恋人同士であろう抱き合う2人、メスを抱えた医師」。

広く知られている世界遺産だけでなく、マイナーな世界遺産――例えば、「宗教の歴史を変えた部屋=ヴァルトブルク城(ドイツ)」「謎の空中宮殿=古代都市シーギリヤ(スリランカ)」「王侯貴族の古城群=ロワール渓谷(フランス)」「3000キロを渡るチョウ=オオカバマダラ生物圏保護区(メキシコ)」「野生の回帰=イエローストン(アメリカ)」など――にも行き届いた目が注がれているのも、この書の特色だ。NHKテレビの5分間ドキュメンタリー「シリーズ 世界遺産100」、ならびに、この書に携わった多くの人々の思いが伝わってくる。