榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

星を見上げて、140億年前の宇宙の起源に思いを馳せよう・・・【続・独りよがりの読書論(5)】

【にぎわい 2006年6月20日号】 続・独りよがりの読者論(5)

日々の仕事に追われている時、星を見上げて、140億年前の宇宙の起源に思いを馳せると、最高の気分転換になる。そこから、46億年前の地球の起源、40億年前の生命の起源、700万年前の人類の起源と辿ってきて、自分の存在に思いを致すと、気の遠くなるような長い時間の経過の先っぽに繋がっている自分を感じることができる。

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宇宙の起源を考える時、アルバート・アインシュタインとスティーヴン・ホーキングがキー・パーソンとなる。『アインシュタインの宇宙』(Quark編集部編、講談社。出版元品切れ)は、アインシュタインの生涯と業績が、物理学苦手人間にも分かり易く述べられている。真理を追究し続けた、不器用で愛すべき人柄のアインシュタインに親近感を感じてしまうことだろう。私は、「想像力は知識より重要」というアインシュタインの言葉を大切にしている。

「特殊相対性理論」を発展させた、アインシュタインの一番重要な業績である「一般相対性理論」が1916年に発表された。これは、一言で言うと、太陽のように大きな質量を持つ物体の周辺は空間が曲がり、そばを通る光は曲がって進むということを方程式で表したものである。そして、このことは、本人の予告どおり、1919年の皆既日食の際にイギリスの観測隊によって見事に実証されたのである。地上では従来のニュートン力学で何ら不都合はないが、極大な宇宙ではそうはいかないのである。

宇宙 起源をめぐる140億年の旅』(ニール・ドグラース・タイソン/ドナルド・ゴールドスミス著、水谷淳訳、早川書房)は、「宇宙の起源→地球の起源→生命の起源」という悠久の時の流れが、まるで映画のシーンのように生き生きと描かれている。「約140億年前、時が刻みはじめた。この瞬間、われわれの知る宇宙に含まれるすべての空間と物質、そしてエネルギーは、針の頭ほどの領域に押し込められていた」といった語り口が読む者をワクワクさせるのだ。

論争する宇宙』(吉井譲著、集英社新書)は、アインシュタインやそのライバルたち、後継者たちによる宇宙論の論争の歴史と、宇宙論の最先端の課題が手際よく紹介されている。

1929年にエドウィン・ハッブルが「宇宙は猛烈な勢いで膨張している」ことを発見した時、アインシュタインは衝撃を受ける。アインシュタインは、この宇宙を、膨張も収縮もせず、どちらを向いても同じような、凪いだ海のように静かなものと考えていたからである。

ジョージ・ガモフが、一般相対性理論と熱力学の方程式を解き、1948年に「ビッグバン理論」を発表する。140億年前に起こった、超高温で高密度に凝集した火の玉状態の物質の大爆発(ビッグバン)によって、宇宙が誕生したという考えだ。ガモフが、当時知られていなかった宇宙マイクロ波背景放射(宇宙全体を一様に満たしている非常に低温の電波)の存在を予言し、それが1965年の観測で発見され、ビッグバンの証拠が得られたことによって、ビッグバン理論は宇宙論の標準理論となったのである。

1981年に佐藤勝彦とアラン・グースが「インフレーション理論」を発表する。「宇宙の誕生→誕生から10-44秒(1秒より遥かに短い時間)後にインフレーション→誕生から10-33秒後(この時点の宇宙の大きさは直径・約1cm)にビッグバン→137(140)億年経過→現在」という考えである。すなわち、宇宙誕生の1千億分の1秒後には宇宙が極微の状態から何億光年という大きさまで急激に膨張したというのである。

マンガ ホーキング入門』(J.P.マッケボイ著、杉山直訳、講談社・ブルーバックス)は、ホーキングの人生とその宇宙論が絵入りで平易に説明されている。筋萎縮性側索硬化症のため車椅子生活を余儀なくされながら、宇宙の謎に挑戦し続けるホーキングに、エールを送りたくなるだろう。

ホーキング、宇宙のすべてを語る』(スティーヴン・ホーキング/レナード・ムロディナウ著、佐藤勝彦訳、ランダムハウス講談社)は、ホーキングが何を目指しているのか、そして、その研究が現在どこまで進んでいるのかを教えてくれる。一般相対性理論から導かれたビッグバン理論のおかげで、宇宙の始まりのほんの少し後から現在に至るまで、宇宙の進化を正確に追うことができる。しかし、宇宙の始まりの極微の世界の解明には量子論が必要となる。アインシュタインが目指しながら果たすことのできなかった、一般相対性理論(現代の重力理論)と量子論(極微の物質を説明する理論)との統一理論を見つけることがホーキングの最大の目標である。4つの力(重力、電磁力、弱い力、強い力)が1つの力の異なる側面を表しているに過ぎないということを説明する理論、すなわち宇宙のすべてを説明するであろう完全な統一理論の発見に全力を挙げているのである。

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生命 最初の30億年』(アンドルー・H.ノール著、斉藤隆央訳、紀伊國屋書店)は、恐竜より前、三葉虫より前、あらゆる動物より前の生命の歴史探求の書である。40億年前に地球に生命が誕生してからの30億年間の生命の歴史について書かれた本は、この本が初めてだと思う。それだけに、生命の起源を探る過程は、推理小説のようにスリリングである。

40億年前の始生代初期の海や大気は低酸素状態であった。酸素をわずかしか含まず、鉄を大量に含んでいた高温の海に最古の細菌や古細菌が住んでいた可能性があるという。25億年前の原生代初期に、長年続いた酸素の乏しい状態から、酸素が比較的豊富な状態に移行したのはなぜか。シアノバクテリア(細菌の一種)の光合成の進化が酸素革命を誘発したのだ。なにしろ、光合成は地球で何より多くの酸素を生み出しているのだから。この酸素革命により、酸素を利用するか、少なくとも酸素に耐えられる生物が、一気に拡大したのである。

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人類の起源と進化に関する本は数多く出版されている。その中で、『人類進化の700万年』(三井誠著、講談社現代新書)を薦める理由は2つある。第1に、人類学は文字どおり日進月歩なので、本の内容がすぐに古くなってしまうが、この本には2005年夏までの最新情報が盛り込まれている。第2に、新聞記者の手になるだけあって、表現が簡潔で理解し易い。

生命の歴史40億年を1年のカレンダーにたとえると、チンパンジーとの共通祖先から枝分かれして、人類がアフリカで誕生した700万年前は、12月31日午前8時30分ごろになる。猿人(最古の人類化石のサヘラントロプス・チャデンシスなど)→原人(ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトス)→旧人(ホモ・ハイデルベルゲンシス)→新人(現生人類のホモ・サピエンス)と辿ってきて、日本列島の人類史にも1章が割かれている。なお、旧人のホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)はホモ・サピエンスの祖先ではなかったことが、1997年に明らかにされている。

人類がたどってきた道』(海部陽介著、日本放送出版協会・NHKブックス)は、20万年前にアフリカで誕生したホモ・サピエンスの、5万年前に始まった世界拡散という興味深いドラマが、最新の研究成果に基づいて鮮やかに描き出されている。