榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

本当に短時間で世界史が学べる掘り出し物・・・【情熱的読書人間のないしょ話(508)】

【amazon 『最速で身につく世界史』 カスタマーレビュー 2016年8月29日】 情熱的読書人間のないしょ話(508)

元の皇帝・クビライ(フビライ)が目論んだ2度の日本侵攻、いわゆる元寇を水際で退けた鎌倉幕府の若き執権・北条時宗の木像(飯窪敏彦撮影)は、リーダーとしての決断力を感じさせます。第1回目の文永の役は時宗23歳の時のことであり、第2回目の弘安の役の時は30歳でした。

IMG_1499

それほどの期待感を持たずに読み始めた『最速で身につく世界史――「24のキーワード」でまるわかり!』(角田陽一郎著、アスコム)は、滅多に出会えない掘り出し物でした。

キーワード「文明」について。「四大文明は全て乾燥地帯で起こっています。・・・なぜ、乾燥地帯のこの四つの周辺で農耕が生まれたのでしょうか? それはそこに、乾燥に耐えうる、最適な栽培種の野生種が『たまたま』繁殖していたからなのです。・・・畑でムギやアワが育てられると、それを食べたのは人間だけではありません。そこにヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ラクダが群がってきます。人類は、その群がってきた動物たちを追い払うのではなく、むしろ飼い始めたのです。それが『牧畜』の始まりです。たまたまたどり着いた場所の付近に、たまたま乾燥に強い植物があった・・・。なので、その近辺で文明が生まれた。この『たまたま』という偶然感は、教科書ではなかなか触れられない世界史の醍醐味です。アフリカの大地溝帯を出発した人類はこうして、たどり着いた場所で、農耕と牧畜を始め、やがて文明が誕生しました」。

キーワード「宗教」について。「宗教とはズバリ『思い込み』です。・・・宗教は人類に様々な恩恵をもたらしてくれます。逆に言えば、間違った思い込みをしてしまい、間違った方向に導かれると、人類に間違った行動を起こさせます。そしてその繰り返しが、世界史を作ってきたのです」。

「ムハンマドの意思を継ぐ正統カリフが4代続いた後、それ以後のカリフを正統と認めるスンニ派と、暗殺された4代目のカリフ・アリーとその子孫のみをムハンマドの後継者とみなす人たちがシーア派として分かれました」。

キーワード「思想」について。「紀元前6世紀頃、ペルシア地方の草原地帯にゾロアスターが現れ、ゾロアスター教(拝火教)を創始しました。・・・(ゾロアスター教の)二元論や、終末論である『最後の審判』という思想は、砂漠の宗教・ユダヤ教に強い影響を与え、その後のキリスト教やイスラム教に通じています」。

「(ギリシャで)生活にゆとりが出ると、人は人生について考え出し、やがて万物の根源を考える余裕が生まれます。そこで哲学が誕生しました」。

キーワード「民族」について。「4世紀中頃、匈奴は中央アジアから黒海周辺、さらに東ヨーロッパにまで到達しました。彼らはローマ帝国民からフン族と呼ばれました。・・・黒海周辺から東ヨーロッパにフン族が侵入したとすると、もともとそこにいた民族はどうなったのでしょうか? 東から強力な遊牧民がやってきたので、彼らは玉突き状態のようにもっと西に移動せざるを得ませんでした。彼らとは、そうゲルマン人!・・・次々にゲルマン系の諸族がローマ帝国内の西ヨーロッパ地域に移動し始めました。これが『ゲルマン民族の大移動』です。・・・ところで、ゲルマン人が西ヨーロッパに移動したということは、そこにもともと住んでいた民族はどうしたのでしょうか? もともと住んでいたのはケルト人です。彼らも、玉突き的に移動せざるを得ませんでした。こうしてケルト人は、イングランドからアイルランドへとさらに西に移動したのです」。

キーワード「征服」について。「突厥は6世紀に最盛期を迎え、中央ユーラシアに一大帝国を築きますが、またもや分裂し、滅びます。しかしこの突厥=トルコ系の民族は西に拡大し、やがてその一派は(アラブ人の)イスラム教圏で(戦闘的な)トルコ人(軍事)奴隷マムルークとなります。これが後に小アジアまで移動して定住して、13世紀にはオスマン朝トルコ帝国を築き、現在のトルコ共和国の元になるのです」。

「第5代ハンでありチンギス・ハンの孫のフビライ・ハンは、中国全土を征服します。1276年南宋を滅ぼし、首都・大都を定め、元を起こしました。やがて朝鮮の高麗を服属させ、鎌倉時代の日本にも侵攻します。これが元寇と呼ばれる事変です」。

キーワード「統合」について。「イギリスでもフランスでも神聖ローマ帝国でもイタリア諸国でもイベリア半島でも、そもそも『その国を代表する王様はその国の国民ではない』場合がほとんどです。現在のイギリスの王室ウィンザー家は、もともとはドイツからやってきたハノーヴァー家です。・・・もともとスイスが発祥だったオーストリアのハプスブルク家は一時期、スペイン、オランダ、イタリアのトスカーナ大公国やナポリ王国を支配していました。そのスペインではハプスブルク家が途絶えると、フランスのブルボン家がスペイン王家になるのです。・・・要するにヨーロッパでは、王侯貴族同士が婚姻を重ね、王様同士の血統がぐちゃぐちゃなのです。ヨーロッパの王室はほぼ親戚同士と言っても差し支えありません」。

いやあ、本当に最速で世界史が身に付きました。