榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

メスの体内に取り込まれ、セックスの一器官に成り果てたオスの運命・・・【情熱的読書人間のないしょ話(924)】

【amazon 『セックス・イン・ザ・シー』 カスタマーレビュー 2017年10月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(924)

我が家の庭にやって来たシジュウカラのカップルを撮ろうとカメラを構えた瞬間、コゲラが現れました。体長15cmほどの日本最小のキツツキです。散策中に、囀るシジュウカラを見つけました。ダイサギの羽繕いはアクロバティックです。朝焼けを見ると、いい一日になりそうな気がします。

閑話休題、『セックス・イン・ザ・シー』(マラー・J・ハート著、桑田健訳、講談社選書メチエ)には、恐ろしい驚くべき事例が記されています。

オスの大切なもの、ペニスを切り離してセックスするタコがいるというのです。「カイダコという変わった種のタコは、近縁種の多くに見られるような海底での暮らしを避け、海中を浮遊する。・・・体長が約45センチにまで成長するカイダコのメスは、タコとしてはそれほど大型ではないが、同じカイダコのオスと比べるとはるかに大きい。オスは成長しても2.5センチからせいぜい4センチで、恐怖感を与えるような姿ではない。・・・カイダコのオスは交接腕を切り離し、離れたところにいるメスに発射して受精させることができる。オスの体は小さいものの、ペニスを兼ねる腕はなかなか立派だ――オスの体よりも長い。交尾の時まで、オスは特製の付属物を左目の下の袋の中に収めている。オスにとって一生に一度しかないその時が訪れると、薄い袋から愛の道具を取り出し、続いて禅僧のような落ち着き払った態度で、この大切な器官を切り離して泳ぎ去る。一方、交接腕は自らの身を守りながら、メスに向かって蠕虫のように突き進む。オスはその直後に死ぬ。メスは切り離されたペニスが外套膜の下にしっかり刺さった状態のまま、その後も繰り返し交尾を行なう。複数のオスからの複数の交接腕が外套膜の中に挟まっているメスも発見されていることから、複数のパートナーの分離したペニスによって受精された卵の面倒を一匹のメスが同時に見ると考えられている」。オスにとっては、文字どおり、命懸けのセックスなのです。

「ちびと女王様――メスの性の奴隷になるオス」の話には、妖しくも複雑な気持ちになってしまいました。「精子の淘汰を決めるだけでは物足りないというメスもいる。こうした女王様は、オスの小さな分身の精子だけでなく、オスそのものの運命も決めてしまう。漆黒の深海に生息するミツクリエナガチョウチンアンコウのオスは、暗く冷たい海中を泳ぎながら、噛みつく相手のメスを探す。あたかもドラキュラのように、オスは鋭い嗅覚を頼りに、メス特有の香りをたどる。若いオスは食べる能力を持たずに生まれるため、メスを見つけられるかどうかは生死に関わる問題だ。孵化した卵の中に蓄えられていた栄養分だけが頼りで、そのエネルギーが尽きてしまう前に、オスは成熟したメスを発見しなければならない。メスはオスの生存と子孫の両方の鍵を握っているのだ。・・・オスはメスに突進し、肉厚の丸い腹部に噛みつく。ただし、暗闇が支配する深海では、奴隷になるのは噛まれた側ではなく吸血鬼のほうだ。メスの肉に噛みつくとすぐにオスの口は溶け始め、顎骨も分解する。あたかも流砂にのみ込まれるかのように、オスの顔が消滅し、組織はメスと融合する。メスとオスの血管も一体化し始める。オスはもはや見ることもできないし、メスの肉が喉の奥深くまで入り込むので呼吸もできない。循環系は融合し、オスが持っていた数少ない体内器官も劣化する――ただし、例外が一つだけある。急速に発達して完全に形成された精巣だ。頭部がメスの体に完全にめり込んだ状態で――おそらくはメスが放出する化学物質を合図として、オスは持てるエネルギーのほとんどすべてを、かなりの大きさの精子工場の成長に振り向け始める。最終的に、かつては一匹の魚だったオスは、ほぼ精子嚢のみと化す」。何ということでしょう、今晩は、怖い夢にうなされそうです。

海では、ペニスを挿入するセックスは少数派です。「海の中でのセックスは、体から離れたところでの体験になることが多い。植物が風に花粉を任せるように、海洋生物の圧倒的大多数は精子や卵子を互いの体内や体表に向けて放つのではなく、渦巻く海中に放出する。実際の交わり――精子による卵子の発見と接合――は、さまよう配偶子次第なのだ」。

「有性生殖は今もなお、種の多様性と存続の要の位置にある。しかも、ペニス風の器官とヴァギナ風の器官による交尾という考え方は、私たち哺乳類にとっては馴染み深いものかもしれないが、進化という観点からすると比較的新しい発明なのだ」。本書を読み終わった時、誰もがこの指摘に大きく頷くことでしょう。

「セックスは生命が満ちるための方法――成長と豊かさを、そしてやがては多様性を導く原動力で、環境の気紛れに対する自然界の保険のようなものなのだ。セックスについてより多くを理解すれば、私たちは海における生産性回復のための大きな障壁になるのではなく、生産性回復に向けた力の担い手になることができる」と、著者は訴えているのです。