榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

僅かな記録と作品を核として、想像力でフェルメールの生涯を再現した絵本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1360)】

【amazon 『フェルメール――この一瞬の光を永遠に』 カスタマーレビュー 2019年1月9日】 情熱的読書人間のないしょ話(1360)

山梨から東京・稲城へ回り、よみうりランドのジュエルミネーションを楽しみました。因みに、本日の歩数は13,393でした。

閑話休題、『フェルメール――この一瞬の光を永遠に』(キアーラ・ロッサーニ文、アンドレア・アレマンノ絵、結城昌子監訳、西村書店東京出版編集部)は、不明な点が多いヨハネス・フェルメールの生涯を、僅かな記録と彼の作品を核として、著者らの想像力で織り上げた素敵な絵本です。

フェルメールの代表作7点が掲載されているので、子供たちがフェルメールという画家を知り、その作品に触れる恰好の入門書と言えるでしょう。私のような大人のフェルメール・ファンも満足できる一冊に仕上がっています。

「フェルメールの人生は、今でもよくわかっていません。だれに絵を習ったのか? 絵のモデルはだれなのか? どんな暮らしをしていたのか? 今のこっているのは、わずかな記録とフェルメールがかいた35枚の絵だけ。35枚の絵には、フェルメールが生きたあかしがいっぱい詰まっていて、私たちのしらないフェルメールのひみつをそっとおしえてくれます。フェルメールの世界へようこそ!」。

「オランダ、デルフト、1640年。『空飛ぶキツネ』という宿屋には、壁にたくさんの絵がかけられています。少年ヤン(=フェルメール)は、1枚の絵にすっかり夢中になっていました。・・・ヤンは、(父親のように)宿屋の主人や画商になるかもしれません。お父さんと同じで織物職人の腕もみがくかもしれません。でも、ヤン自身は、心のなかで決めていました。大きくなったら、画家になるんだ」。

「デルフト、(1644年から)数年後。・・・ヤンは、画家になっていたのです。・・・太陽の光がすうっとさしこみ、(デルフトの)町をつつみこみます。運河の水面は波立ち、きらきらとした色が生まれます。ヤンの手が動きはじめました。・・・そしてついに、ヤンの町が完成しました。子どものころ水面に見た、魔法をかけられたような、あのもうひとつの町です」。

「ヤンは次に、ガラス越しの光をうけた女の人の横顔をえがきました。妻のカタリーナがとどいたばかりの手紙をよんでいる姿です。そのとき、太陽の光がすうっと部屋にさしこんできました。光は少しずつ弱くなっていきます・・・いそがなくては! ヤンはその瞬間に絵をとじこめようと夢中になりました。こうして一瞬の風景は、かけがえのないものとなって、絵のなかに永遠に残ることになりました」。

「白い石畳の道に面した家です。白くぬられた壁の上のほうは、赤いレンガが見えていて、ところどころ白くなっています。窓ガラスには、まるで太陽の光が落書きしたかのように、白い光がかがやいています。あそんでいる子どもや、黙々と家事をする女の人も見えます」。

「『メイドのタンネケがいてくれて、ほんとうによかった!』。ヤンは、ほっとため息をつきます。タンネケは、力もちで心のやさしいメイドです。ヤンは、タンネケが夕食の準備をするところをそっと観察しています。筆を手にして、最高の瞬間を待っているのです。今だ! この瞬間を絵のなかにとじこめなくては。ヤンは、タンネケが牛乳をそそぐようすをかきはじめました。牛乳をそそぐトクトクとした音が、タンネケの鼻歌にあわせてリズムをきざんでいます。『タンネケは女王さまみたいだ。テーブルの上の真ちゅうの水差しとパンはきらきらとかがやいていて、まるで女王さまの宝石だ』。ヤンは細くて先のまるい筆で、真ちゅうの水差しに、ぷっくりともりあがった白い点をえがいていきます。まるでダイヤモンドがちりばめられているように見えます」。

「ひとりめの子はマリアで、すっかり年ごろの娘になっています。ある日、ヤンはマリアが妻のカタリーナの宝石箱をひっかきまわしているところを見つけました。マリアは頭に青と黄色のターバンをまいて、耳にはカタリーナの真珠のイヤリングをつけています。・・・ヤンがえがくマリアは大人の女性で、少しばかり謎めいた不安そうな表情をしています」。

「オランダは、発明と発見の国です。デルフトの町にも、科学者がいます。ヤンは、ふたりの科学者を絵にしたことがありました。この2枚の絵は、芸術家組合にかざられています。ひとつは地理学者、もうひとつは町じゅうで尊敬されている天文学者の絵です」。

「カタリーナ、カタリーナのお母さん、メイド、11人の子どもたち。子どもたちは、けんかをしていないときは、ヤンのそばにいるのが大好きでした」。

「かきかけの絵を完成させるときです。なんどもなんども手をくわえてきた『絵画芸術の称賛』という絵。絵をかいている自分の姿をうしろからえがいた絵です。・・・光がそっと部屋に入ってきました。すんだ光がひろがって、ふれるものすべてを祝福しているようです。ヤンは、このときを待っていたのでした。ヤンはいつものように、光を絵のなかにとじこめます。こうして、その絵はかけがえのないものとなって、今も人々の心に光をともしています。一瞬を永遠にかえた画家、ヤン・フェルメール」。

本書のおかげで、遠い存在だったヤン=フェルメールに親しみが感じられるようになりました。子供たちに読み聞かせをしていても、こういう夢のある絵本には、そうそう出会えるものではありません。