榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

森友事件とは、実は森友学園の事件ではなく、国と大阪府の事件なのだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1425)】

【amazon 『安倍官邸vs.NHK』 カスタマーレビュー 2019年3月15日】 情熱的読書人間のないしょ話(1425)

泳ぐコイたちを眺めていると、時間が経つのを忘れてしまいます。ハクモクレンが満開を迎えています。クロッカス・ベルヌス・ピックウィックが紫色の花を咲かせています。因みに、本日の歩数は10,342でした。

閑話休題、『安倍官邸vs.NHK――森友事件をスクープした私が辞めた理由(わけ)』(相澤冬樹著、文藝春秋)を読み終わって、3つのことが強く印象に残りました。

第1は、森友事件の本質が喝破されていること。

「国有地の格安での売却は、国民の財産のたたき売りだ。近畿財務局の公務員は本来、国有地を少しでも高値で売るよう努力すべきなのに、8億円もの値引きで国に損害を与えたことにならないか? これは刑法の背任罪にあたるのではないか? そんな疑問を誰しも抱く」。

「事件の本質は、なぜ学校は認可されるところだったか、なぜ国有地は格安で売られたか、に尽きる。国有地の格安売却は、財務省、近畿財務局の背任行為の疑いがある。その捜査が最重点であるべきだ。ところがこの頃から、大阪府がしきりに、森友学園の補助金不正をめぐる情報を報道各社に流し始めた。大阪府が森友学園の幼稚園に交付していた2つの補助金、教員を確保するための補助金と、障害のある子どもを受け入れた場合の補助金に、教員や障害児の水増しなどの不正の疑いがあるという話だ。大阪市も同様に、市の補助金も不正に受け取っていた疑いがあると言い始めた。なるほど、補助金不正はあったのかもしれない。しかし、それは国有地の格安売却とはまったく関係のない話だ。そもそも森友学園が多額の補助金を受けていることは大阪府も大阪市もとっくにわかっていたことで、その申請内容がおかしいとすれば、これまでまったく気づかなかったという方が不自然だ。なぜ今になって、このタイミングで、急に騒ぎ始めたのか?」。

「私から言わせると、新たな詐欺事件に注目を集め、本筋の背任事件から世間の目をそらす狙いとしか思えなかった。大阪府も大阪市もトップは大阪維新の会。維新と安倍官邸が近いのは周知のこと。つまり、これは維新が国のためにナイスアシストをしている陽動作戦としか、私には思えなかった。ところが検察の捜査は、当初こそ背任を意識していたものの、次第に詐欺優先に切り替わっていく」。国有地問題から補助金詐欺へ焦点を移す検察の水面下の動きが追跡されています。

「『国有地の売却前に、近畿財務局は森友学園との売却交渉の過程で、学園がめいっぱい出していくらまでなら出せるのかを聞き出している。そして実際にその金額以下で売っている』。耳を疑った。そんなことが本当にあるのか?」。

「(NHKの)報道局長は4月の人事異動で交代した。私が慕うM報道局長は別のポストに転出し、代わって小池氏が昇格して報道局長になった。どちらも政治部出身だが、小池報道局長は安倍官邸に近く、こんな政権にとって不都合なネタを歓迎するはずがないというのだ」。

「この(私の)原稿は、2017年7月26日の夜、ニュース7で放送された。ついに決定的特ダネを出したぞ。記者はネタを出してなんぼ。成果があがること、視聴者に自分のネタが伝わることが何よりの喜びだ。・・・ところがその日の夜、異変が起きた。小池報道局長が大阪のA報道部長の携帯に直接電話してきたのだ。私はその時、たまたま大阪報道部のフロアで部長と一緒にいたので、すぐ横でそれを見ていた。報道局長の声は、私にも聞こえるほどの大きさだ。『私は聞いてない』『なぜ出したんだ』という怒りの声。・・・(何度も繰り返し電話がかかってきて)最後に電話を切ったA報道部長は、苦笑いしながら言った。『あなたの将来はないと思え、と言われちゃいましたよ』。その瞬間、私は、それは私のことだ、と悟った。翌年6月の次の人事異動で、何かあるに違いない・・・。このネタの続報が、翌日の朝用に準備されていた。だが、小池報道局長の怒りを受けて何度も書き直され、意味合いを弱められた。さらに、翌朝のニュース『おはよう日本』でのオーダーも、後ろの方に下げられた。かくて、忖度報道が本格化していく」。

「『ニュース7』と『クローズアップ現代+』。双方に対する、あまりにも露骨な圧力とごたごた。私はそれまで31年間のNHK報道人生でこんなことを経験したことがなかった。現場のPD(=NHKではディレクターのことをPD<program director>と呼ぶ)たちも口々に『異常事態だ』と話していた。私が長年たずさわり、鍛えられ、愛してきたNHKの報道が、根幹からおかしくなろうとしている。そんな危機感を感じる番組作りだった」。

「なぜ国有地は格安販売されたのか? その謎は解明されていないし、誰も責任をとっていない。さらに言えば、国有地を売ったのは森友学園に小学校を作らせるためで、小学校を無理やり認可しようとしていたのは大阪府だ。大阪府はなぜ、そこまでして小学校を認可しようとしたのか? 国と大阪府は、なぜそこまでして、この小学校を設立させたかったのか? 森友事件とは、実は森友学園の事件ではない。国と大阪府の事件だ。責任があるのは、国と大阪府なのだ。国の最高責任者は安倍晋三総理大臣。大阪府の最高責任者は松井一郎大阪府知事である。お二人には説明責任があるが、それが果たされたと思わない人は大勢いるだろう。お二人が説明しないなら、記者が真相を取材するしかない。この謎を解明しないと、森友事件は終わったことにならない。私がNHKを辞めた最大の目的は、この謎を解明することだ。森友事件は私の人生を変えた。でも、それはいい方向に変えてくれたと思う。何のしがらみもないというこの大阪日日新聞で、私は森友事件の取材を続ける。謎が解明されるまで」。

第2は、NHKという巨大組織において出世するには何が必要かが剔抉されていること。

「この夏、2018年8月31日、私はNHKを辞めた。31年間、記者として勤めたNHKを退職した。・・・では、なぜ私はNHKを辞めたのか? それは記者を外されたから」。

「30年前、同じ広島管内で過ごした記者2人の、あまりにも対照的なその後の人生。彼は出世したが、その上にはさらに理事がいる。彼もプレッシャーを感じて追い込まれているのかな? それで、あんな細かいことを言うような振る舞いをしてしまうのかな? わからないけれど、心底から反発する気にはなれない。小池さん。光輝いていたあなたの鳥取時代の姿を私は忘れていませんよ」。

第3は、特ダネを追う記者たちの激烈な仕事ぶりが、その息遣いもろとも伝わってくること。