榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

縄文土器は「ごきぶりホイホイ」のようなものなのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1460)】

【amazon 『昆虫考古学』 カスタマーレビュー 2019年4月19日】 情熱的読書人間のないしょ話(1460)

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閑話休題、『昆虫考古学』(小畑弘己著、角川選書)は、縄文土器は「ごきぶりホイホイ」のようなものだ、と主張しています。

「筆者の圧痕(=押しつけられたり、圧力が加わったりしてついた形)調査歴はコクゾウムシの発見歴といっていいほど、圧痕昆虫の中ではコクゾウムシが断トツである。同じ種の甲虫が圧損調査を行った全国各地のほとんどの遺跡で発見されている事実は、土器作りの場にコクゾウムシがたくさんいたこと、縄文時代の家には普遍的な家屋害虫であったことを強く示唆している。・・・これまでの筆者の経験によると、土器圧痕種実は人間と共存していた植物(栽培植物・有用植物)が検出される度合いが高いため、三内丸山遺跡でみたように、圧痕昆虫も貯蔵食物害虫もしくは家屋に棲みついた昆虫である可能性が高い」。

「土器圧痕は人との共生昆虫を捕まえるのにもっとも適した捕虫網もしくはトラップであるといえる」。著者は、縄文土器は「ごきぶりホイホイ」のようなものだというのです。

「2016年2月4日の午後、いつものように北海道埋蔵文化財センターの整理室の片隅で、福島町の館崎遺跡から出土した復元土器の一つを膝の上において圧痕を探していた私の眼に異様な形の多数の穴が飛び込んできた。涌元2式土器という当地域の縄文時代後期初頭の深鉢形土器の底部内面に同じような形をした無数の穴が見えたのである。その穴は長さ3mmほどのハエの卵のような形をした細長いものであったが、よくよく見ると見覚えのあるコクゾウムシの圧痕であった。『えっ』、一瞬自分の眼を疑った。『まさか!』、20点を超えるコクゾウムシが底部一面に広がっていた。はやる心を落ち着かせ、土器の内外面を丁寧に眺めると、そこにも多数のコクゾウムシの圧痕がついていた。興奮で、今にも心臓が飛び出しそうな勢いであった。次の瞬間、『コクゾウムシ入り土器が出ました!』と大声で、同じ部屋にいた発掘担当者の影浦覚さんを呼びつけていた」。著者の研究者魂がひしひしと伝わってきます。

「この復元土器には合計で417匹のコクゾウムシが入っていた。3Dのドット図を見ると、コクゾウムシの位置を表したドットだけで土器の形がわかるほどである。この復元土器は全体の16.8%の部分が欠落しているので、推定で501匹のコクゾウムシ成虫がこの土器の中にいたことになる。もはやこれは意図的混入という他ない。・・・クリやドングリも縄文人たちにとっては重要な食料であった。私は、縄文人たちは、コクゾウムシをこれら堅果類の生まれ変わりと考えていたのではと想像する。その理由は、縄文人たちがコクゾウムシの成虫がクリやドングリに卵を産み付け、そこから羽化して出てくるという、コクゾウムシ発生のメカニズムを知らなかったと思われるからである。・・・クリやドングリから出てくるコクゾウムシは。彼らの大切な食料を加害する害虫ではあるが、悪いムシではなく、ハエと同じく、ドングリやクリの化身と考えられていたのかもしれない」。縄文人たちが、クリから出てくる「害虫」を「クリの化身」と見立て、再生を願って土器の中に練り込んだという、著者の大胆な仮説「意図的混入説」は説得力があります。

世界的な貯穀害虫であるコクゾウムシが、イネではなく、ドングリやクリを食べ、縄文人たちの家に棲みついていたこと、また、縄文人たちがダイズやアズキ、さらにはクリを栽培していたこと――を、土器圧痕と呼ばれる、いわば人が作った土器粘土中の種や虫の化石が明らかにしたのです。

知的好奇心を掻き立てられる一冊です。