榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

差別意識と群集心理が人々を差別に駆り立てる恐ろしさ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1601)】

【amazon 『差別と弾圧の事件史』 カスタマーレビュー 2019年9月5日】 情熱的読書人間のないしょ話(1601)

稲田が実りの季節を迎えています。ハネナガイナゴ、コバネイナゴ、セスジイトトンボの雌をカメラに収めました。ミンミンゼミも頑張っています。モミジバフウの実がたくさん落ちています。因みに、本日の歩数は10,394でした。

閑話休題、『瀬別と弾圧の事件史』(筒井功著、河出書房新社)は、(被差別)部落差別、サンカ(特定の生業に従った無籍、非定住の民)差別、朝鮮人差別、番人(非人)差別、キリシタン差別、猿まわし差別、高砂族(台湾の先住民族)差別、アイヌ差別などの事件集です。

例えば、「周辺住民千余人が部落を襲う――群馬県・世良田村事件」は、このように説明されています。

「大正14(1925)年1月18日の夜から翌日未明にかけて、群馬県新田郡世良田村(現・太田市世良田町)世良田の小さな被差別部落が千数百人の周辺住民に襲われ、15人が重軽傷を負い、域内23戸のうちの15戸が破壊された事件である。発端は村内での差別発言であり、それに対する部落側の『糾弾』、その糾弾への反発が、起訴された者だけで82人にもなる大事件をまねいたのだった。背景には、同11年3月の全国水平社の創立と、同12年9月の関東大震災のあと結成された世良田村自警団の存在があった。この衝突は地域社会に長期の分断をもたらしたのみならず、その後の部落解放闘争とくに関東地方の水平運動に深刻な打撃を残した。それは、部落民による糾弾の評価をめぐる問題が初めてはっきりと表面化したできごとでもあった」。群馬県は埼玉県、長野県とともに東日本では部落の数が多い県だったと記されています。

重要な指摘がなされています。「事件後、先の糾弾に関連して部落側の5人が、襲撃の責めを問われて一般地区の77人が起訴された。後者の容疑は、すべて刑法の騒擾罪(現在は騒乱罪の名になっている)違反であった。そのほとんどが農民で、中には少数の自営業者らがまじっていた。いずれも、ふだんは犯罪や暴力とは無縁の実直な生活者たちであったろう。その彼らが深夜、大挙して隣接する地域の住民宅へ襲いかかったのである。そこに差別意識と集団心理の恐ろしさがうかがえる」。

「書きおわってみて、これらを引き起こしたのは、単なる差別意識というより群集心理ではなかったかとの思いが強く残った。差別が存在する社会であっても、ふだんはそう露骨な形で表面化することは少ない。ところが、何かの拍子に衆をたのんで行動する状態に置かれると、重し蓋がとっぱらわれて、ごく善良な地域住民が残虐な殺人者に一変してしまう。その距離は、どうやらさして遠くはない。ひょっとしたら、それはだれもが簡単に飛び越えられる小さな溝のようなものでありえる。この辺に差別と、それを生み出した人間社会の怖さがあるのではないか」。

現在のヘイト・クライムに思いを馳せてしまいました。