榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

私の好きな西東三鬼とモーパッサンが正当に評価されているではないか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1687)】

【amazon 『霧中の読書』 カスタマーレビュー 2019年11月29日】 情熱的読書人間のないしょ話(1687)

千葉・柏の逆井の観音寺の紅葉を堪能しました。因みに、本日の歩数は23,414でした。

閑話休題、エッセイ集『霧中の読書』(荒川洋治著、みすず書房)の中で、とりわけ目を惹かれたのは、現代俳句の鬼才・西東三鬼を取り上げたエッセイです。

「シンガポールと東京で歯科医を開業。東京・神田の共立病院歯科部長のとき、患者を通して俳句を知る。そのとき33歳だから出発はおそい。1940年、『水枕』の句を収めた第一句集『旗』で新興俳句の旗手となるが、戦争批判の作品で検挙された(京大俳句事件)。戦後は山口誓子主宰『天狼』を支え、俳句革新に力を尽くす。根っからの自由人。これまでにない大胆な発想。尖鋭な感性。多くの名句が生まれる」。

著者が引用している句を挙げておきます。
●水枕ガバリと寒い海がある
●おそるべき君等の乳房夏来る(私の最も好きな一句です)
●中年や遠くみのれる夜の桃
●みな大き袋を負へり雁渡る
●秋の暮大魚の骨を海が引く

詩人である著者は、三鬼の「おそるべき」才能を高く評価しているのです。

モーパッサンの『脂肪の塊』(ギ・ド・モーパッサン著、青柳瑞穂訳、新潮文庫)が絶賛されています。

「結局、彼女(魅力的だが太っちょなので『脂肪の塊』と呼ばれている娼婦)は、士官にからだを許すことに。みなは自分の身が救われてしまうと、手のひらを返したように冷たい。『だれも女のほうを見ようとしないし、女のことを考えてもいなかった』。人間の卑劣さ、醜悪さ。心優しい一人の女性への重圧。作品にこめられた人間的な主張は明快に伝わる。とてもはっきりした小説だ」。

「人間の現実を簡潔に物語り、読む人の心をしっかりと引きよせる。『脂肪の塊』は長編にも短編にもない、特別な力をもつ中編小説の道を切り開いた。この『脂肪の塊』のような完成度と密度をもつ中編小説はそのあと、チェーホフ『谷間』、トーマス・マン『トニオ・クレエゲル』、ヘンリー・ジェイムズ『ジャングルのけもの』、スタインベック『ハツカネズミと人間』などが現れて輝きを放ったが、いまはとても少ない。中編を大切に考えること。それは小説を見るうえで忘れてはならない原則である」。まさにそのとおりだと、思わず膝を打ってしまいました。モーパッサンの作品を軽んじる一部の識者がいる中、私の大好きな『脂肪の塊』を、著者がこれほど高く,正当に評価しているのを知り、嬉しくなったからです。

本書を読み終わって、著者・荒川洋治が同志のように思えてきました。