世界初の製鉄技術を発明したヒッタイト帝国の謎・・・【山椒読書論(353)】
【amazon 『鉄を生みだした帝国』 カスタマーレビュー 2013年12月22日】
山椒読書論(353)
『鉄を生みだした帝国――ヒッタイト発掘』(大村幸弘著、NHKブックス。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、日本人による知的探検の書として見逃すことのできない一冊である。
今から3600年前から550年に亘り小アジアに一大帝国を築きながら、その後、忽然と歴史から消えてしまった幻のヒッタイト民族の遺跡が発見されたのは、20世紀初頭のことであった。
ヒッタイト帝国がオリエント世界で一時はエジプトさえ脅かすほどの一大勢力になり得たのは、当時、ヒッタイト民族が製鉄技術を独占し、鉄製の武器と軽戦車を駆使することによって軍事的に優位に立つことができたからである。ところが、ヒッタイト帝国で本当に製鉄が行われていたのか、そして製鉄が行われた場所はどこだったのか、という問題は証明されていなかった。
トルコに留学中の若き学徒がこの問題に果敢に挑み、8年に亘る粘土板文書の解読と遺跡の発掘調査の末に、遂に製鉄跡を突き止めるまでの体験が感動的に綴られている。
本書は、そのテーマが何であれ、自分のテーマを持っている者は、苦労が多くとも幸せである、ということを私たちに教えてくれる。