私の逆境を救ってくれた本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1)】
【恋する♥読書部 2014年1月10日号】
情熱的読書人間のないしょ話(1)
私は、組織の中で、それほど実力のない割りには、これまで幸運に恵まれてきました。そんな私でも、思いがけない逆境に置かれたことが何度かありました。
そういうときは、『夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録』(V・E・フランクル著、霜山徳爾訳、みすず書房)を繙いて、切り抜けてきました。著者のフランクルは、少壮の精神科医として、美しい妻と2人の子供に恵まれ、ウィーンで平和に暮らしていたのですが、突然、ユダヤ人という、ただそれだけの理由で、ナチスによって一家もろともアウシュヴィッツ強制収容所へ送られてしまったのです。そして、ここで彼の両親、妻、子供たちは、あるいはガス室で殺され、あるいは餓死してしまうのです。彼だけが、この書に描かれている凄惨な状況の中を生き延び、奇蹟的に生還することができたのです。
彼はどのようにして、この死と隣り合わせの逆境を生き延びたのでしょうか。彼は、精神的、肉体的にぎりぎりの状況下にあっても、酷寒の屋外での辛い行進や労働の最中に、心に思い描いた最愛の妻と会話を交わし続けることで、彼女から慰められ、勇気づけられたのです(妻がこの時には既に殺されていたことを彼が知るのは、生還後のことです)。
フランクルの厳しい状況に比べれば、自分の逆境など何ほどのことか、そう考えることで、逆境を耐え抜くことができたのです。