榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

本書を読んで、小沢一郎事件で有罪とされた石川知裕を応援したくなった・・・【山椒読書論(482)】

【amazon 『逆境を乗り越える技術』 カスタマーレビュー 2014年8月22日】 山椒読書論(482)

逆境を乗り越える技術』(佐藤優・石川知裕著、ワニ・プラス)は、鈴木宗男事件で512日間、拘置所に勾留され、有罪とされた佐藤優が、小沢一郎事件で有罪(上告中)との判決が下されたため、現在、公民権停止中の石川知裕に、逆境を乗り越える技術を伝授する会話で構成されている。

一応、こういう形をとってはいるが、これはプロパガンダを目的とした本である。石川を衆院議員として復活させること、それが狙いである。このことが分かっても嫌な気分にならないのは、エピローグで佐藤自らがこの狙いを率直に表白しているからだ。読み終わって、私も石川を応援したくなったこと、そして、小沢に対する印象が180度好転したことは、我ながら意外であった。

「●石川:逆境に陥ったときには、まずちょっと落ち着いて、誰かに相談することですか? ●佐藤:まず人に相談する前に紙を持ってきて、ノートがいいと思いますが、何が問題かということを書き出してみることです。問題を書き出すと、意外にその段階で半分ぐらい解決がつきますから」。紙に書くことの大切さが強調されている。

「●佐藤:逆境に追い込まれたら、絶対環境を変える必要があります。一回、そこに至った流れを切断しないといけません。●石川:気分転換も必要ということですね。そして、無理をしないことも大切ですね」。「●佐藤:根っこでは『絶対に生き残ってやる』と決心しているから、変なプライドを捨ててそういうことができるわけです。●石川:だから例えばサラリーパーソンでも、ずっと出世を続けてきて突然左遷とか、高校生なら大学受験に失敗とか、どこかでレールから一旦外れたときに、どうやって捨てられるものを見極めて、復活を考えていくのかということが大切ですね」。私も企業人として順風満帆の最中に突然、左遷の憂き目を見た経験があるので、この会話は身に沁みる。

「●佐藤:例えば、サラリーパーソンからすると一見、ウクライナ情勢はかけ離れた話に思えるかもしれません。でもいま、この問題には関心を持たないといけません。というのも、ビジネスにも自分の置かれている環境にも全部つながっているからです。極端な話、放っておくと逆境に追い込まれることもあるのです。●石川:遠いところの騒動として捉えるのではなく、本質を見ないといけませんね」。企業人も、社会情勢は知っておかねばならないというのだ。

「●佐藤:その集団なり流れのなかで、いかに『この分野だったらこいつにしかできない』と思わせる物語をつくり上げるか。そうでないといつでもコマとして代えられてしまいます。だから小説を読むという行為は、生き残ることと深く関係してくるわけです。●石川:自分で物事の予測を立てるうえで、色んな物語を読んでおくと役に立つということですね。●佐藤:読み続けていくと、ある段階で質量転化して――つまり読書の量ばかりが多かったのが、ある段階で読書の質が高まるようになって、自分で物語を組み立てることができるようになるのです。それから『こういうふうに物事は進行しているのではないか』と筋読みできるようになります」。この生き残るための読書という考え方に、全く同感である。

佐藤は、小沢事件を「国民の選挙によって選ばれた政治家、あるいは資格試験(国家公務員試験、司法試験など)に合格したエリート官僚のどちらが日本国家を支配するかをめぐって展開されている権力闘争」と見做している。「検察は、エリート官僚の利益を最前衛で代表している。過去1年、検察は総力をあげて小沢幹事長(当時)を叩き潰し、エリート官僚による支配体制を維持しようとした。エリート官僚から見ると、国民は無知蒙昧な有象無象だ。有象無象から選ばれた国会議員は、『無知蒙昧のエキス』のようなもので、こんな連中に国家を委ねると日本が崩壊してしまうという危機意識を持っている」というのだ。

「この裁判には、種々の紆余曲折があったが、2012年4月26日に、東京地方裁判所は小沢氏に無罪を言い渡した。小沢氏無罪は、石川氏が検察官の任意事情聴取の内容をICレコーダーに録音し、それが証拠として採用されたことが、決定的に重要になった。・・・もし、石川氏が、検察官との取り調べの様子を隠し録音していなければ、検察の違法、不当な取り調べによる調書が証拠として採用され、小沢氏が有罪にされていた可能性が充分ある。それを考えると空恐ろしくなる。・・・検察の独り善がりの正義感によって、国策捜査によって政治家を排除するという手法が民主主義社会の基盤を破壊し、日本国家を弱体化させている。・・・これらの一連の出来事は、石川氏が検察に対して、『やっていないことは、誰がなんと言おうとやっていない』と筋を貫き通すところから始まったのである」。

有力政治家と検察エリートの権力闘争に心ならずも巻き込まれ犠牲者となったが、再起を目指して、自分を磨きながら雌伏中の石川には、一回りも二回りも大きくなって、いずれ国会で活躍してほしいと願っている。