巨大なコダックは消滅したのに、富士フイルムはなぜ生き残れたのか・・・【MRのための読書論(107)】
消滅の危機
自分の会社の最主力品の売上高と利益の大部分が消えてしまうという過酷な状況に直面したとき、あなたならどうする?
大胆な構造転換で富士フイルムのV字回復を成し遂げた古森(こもり)重隆だけに、その著、『君は、どう生きるのか――心の持ち方で人生は変えられる』(古森重隆著、三笠書房)は圧倒的な説得力で迫ってくる。
「私が富士フイルムの社長に就任した2000年以降、写真の世界にデジタル化の大波が一気に押し寄せ、売上の6割、利益の3分の2を稼ぐ主力事業であった一般写真市場、またその中のコア商品であった写真フィルムの売上が10年間で10分の1以下に激減した。まさに、本業消失の危機が富士フイルムを襲ったのである。・・・(私が断行した経営改革によって)富士フイルムは、写真フィルム中心の会社から、医療器械や医薬品、化粧品などのヘルスケアや液晶用フィルム等の高機能材料など、6つの分野を中心とする多角化企業に生まれ変わったのである」。長年、富士フイルムがその後を追いかけてきた同業のグローバル企業・コダックが消滅してしまった事例に照らして、富士フイルムの果敢な姿勢が際立つ。
どう生きるか
著者の人生の基本的命題は、「人は生き方や成し遂げた成果によって自己を実現する」である。「人生を前向きに感じることが出来るか」、「すべての経験から学ぼうとしているか」、「それにより自己を向上させようとしているか」との観点から、「今を本気で生きる」、「本気で仕事や課題に取り組む」、「それらを通じて絶えず自己を磨き続ける」ことで、己の力によって道を切り開いてきたのである。「自分を高め、それを成果に結びつけて自己実現出来た人こそが、人生の勝者なのである」というのが、著者の信念だ。
「一見小さな仕事にも大きな意味がある。その積み重ねに意味がある。やがて、全力を投入する時が来る」、「使命感や責任感を持って前向きに仕事に取り組んでいる人は、成功からも失敗からも、自分を高める教訓を得ることが出来る」、「優しさだけでは無力なときがある。何か事が起きたときには、強さがないと自分の大切な存在や価値を守ることが出来ないからだ。だから『優しさ』だけでなく『タフ』でなければいけないのである」、「サラリーマンの人生には、おおよそ3回から4回は誰でも大きなチャンスがあるものだ」、「ピンチは『変革のためのチャンス』と捉える」――といった味わいのある言葉が鏤められている。
真の実力
真の実力を養うための具体的な方法に話が進んでいく。「一人の人間が経験出来ることには、時間や空間など限りがある。その中での経験だけではとても足りない。いい本を読むというのは、自分が触れてきた周りの世界以上のものに触れることだ。素晴らしい天才に触れることが出来る。自分では思いもつかないような考え方に触れることが出来る。偉大な業績を残したプロセスそのものに触れることが出来る。本は知恵の宝庫なのだ」。本を通して自分の世界が大きく開けていくというのだ。
優れた営業マン
業界は異なっても、「優れた営業マン」が努力し続けていることには共通点が多い。「相手のニーズは何か、そのニーズにどういう価値を持った答えが用意出来るか。ひと言で言えば、これがきちんと出来る営業マンが、優れた営業マンである。・・・お客さまについての情報を収集し、作戦を練り、周到に準備をし、そして最後は押しの強さで勝負」。
「経験から学び、人から学び、読書などを通じて学ぶ。学んだことを試して、さらに学ぶ。その繰り返しだ。そうしてどんな問題が立ちはだかってもびくともしない思考力、瞬時に正しいことを選び取る判断力、そして実際に行動に移す瞬発力・・・『基盤となる力』を高めながら一生、自分を磨いていかなければならない。そして答えがない問いに答えを見つけ出し、決めたことをやり通すことによって、結果を残していく。それが仕事というものなのである」。
勝負時に最大限の瞬発力を発揮するために、日々、心を練り、真の実力を蓄積していくことの重要性――私もこのことを長い企業人生活から学んだ一人だ。
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