カブトムシの大型写真集に癒やされるのは、私だけ?・・・【情熱の本箱(58)】
気分が落ち込んだとき、人間関係に疲れたとき、昆虫の写真集や図鑑を見ると癒やされる、という私のような者は、世の中の少数派だろうか。
昆虫の写真集といっても、『兜虫 Rhinoceros Beetles:Micro Presence 4』(小檜山健二著、出版芸術社)は、そんじょそこらにあるような並みの昆虫写真集ではない。横30cm、縦23cmの各ページに1匹のカブトムシが鎮座ましますのだから、その迫力はメガトン級である。
かつて昆虫少年であった私も、本書で初めて知ったことがいくつもある。
第1は、ミドリカラカネヒナカブトの色の美しさ。体全体が緑と赤紫の見事なグラデーションになっている。
第2は、角の形の異様さだ。スチューベルツヤサイカブトの上から垂れ下がる角の幅の広いこと。ゴホンカブトは5本の角がバランスよく幾何学的な美しさを保っている。そして、巨大な角がクレーンの如きヘラクレスオオカブトの威風堂々たる貫禄。
第3は、肢の長さに驚かされた。ノコギリテナガカブトのひょろ長い前肢は体の2倍近くもある。
第4は、何とも不思議な背中に目を瞠ってしまった。クボミアリノスコカブトは頭部といわず胸部や腹部の背中といわず肢といわず、体中が小さな窪みで蔽われているのだ。窪みがいったいいくつあるのか気になって数えてみたが、375個まで数えたところで、きりがないので諦めた。そして、何といっても極めつきはテルシテスヒメゾウカブトである。頭部を初め胸部や腹部の背中にイノシシのような体毛が生えているではないか。
こうした世界のカブトムシに伍して、お馴染みの我が国のカブトムシも登場しているが、その哲学者を思わせる気品ある姿は、どうしてどうしてなかなかのものだ。
巻末の解説が充実しているのも嬉しい。「ムシに声帯があるわけではなく、鳴くと言っても体の一部をこすりあわせて音を出す虫が多い。ではカブトムシは鳴くか。カブトムシは発情したり興奮したりするとよく鳴くことが知られている。腹を伸び縮みさせて鳴くという」。
日本に棲息しているカブトムシは、カブトムシ、コカブト、タイワンカブト、ヒサマツサイカブト、クロマルカブト、ホリシャクロマルカブトの6種で、タイワンカブト以下の4種は琉球列島にしかいないそうだ。それにしても、日本全土に分布しているというコカブトの存在を今日まで知らなかったことに衝撃を受けている。今後は、「昆虫少年だった」なんて、とても言えないなと、唇を噛み締めている私。