榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

野ウサギ、野ネズミ、害虫、益虫がいる自然栽培のリンゴ園の一年・・・【情熱的読書人間のないしょ話(153)】

【amazon 『わたしの畑の小さな世界』 カスタマーレビュー 2015年8月25日】 情熱的読書人間のないしょ話(153)

散策中に、せせらぎを耳にすると、心が洗われたような清涼感を味わうことができます。木陰では、白い小さな花を穂状にたくさん付けたノシランの群落が浮き上がって見えます。秋から冬にかけて、美しいコバルト・ブルーの果実を付けるということです。因みに、本日の歩数は10,226歩でした。

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閑話休題、『わたしの畑の小さな世界――「奇跡のリンゴ園」の宝もの』(木村秋則著、横山拓彦イラスト、エスプレス・メディア出版)は、リンゴ園の一年を追った写真・文章と害虫・益虫のカラー・イラストが見事なハーモニーをなしています。

「わたしをモデルにした本や映画をきっかけに、農薬、肥料、除草剤を使わない、自然栽培という農業に興味をいだく、多くの人々がリンゴ園を訪れるようになりました」。「草がぼうぼう生い茂った畑には、野ウサギや野ネズミなど小さな動物がたくさんすんでいます。鳥から逃れるため、葉っぱの裏に隠れている虫を、寝転んで観察しようものなら、巣穴をふさがれた野ネズミに『じゃまだよ』といわんばかりに背中をつつかれるありさまです」。

農薬、肥料、除草剤を使用した農作物が一般栽培、法律に定められた範囲内で農薬、肥料を使う農作物が有機栽培、そして、農薬、肥料、除草剤を使用しない農作物が自然栽培と説明されています。

「1月(雪払い、選果)――しんしんと降り積もる雪。静けさだけが畑を支配している。まるで生きものたちは死んでしまったかのようだ。でもかれらはじっと春を待って眠っている」。

「4月(剪定、枝支え)――土の中ではアリや線虫、ミミズが蠢きはじめる。呼応するかのようにリンゴの樹々も休眠から目覚める。手にとる土はツーンと鼻を突き、息吹く前の香りを放つ」。

「5月(草刈り、酢散布、泥塗り)――下草が萌えるころ、リンゴのつぼみはふくらみ、待ちに待った花が咲く。虫たちは蜜をもとめて舞い、歓喜あふれる舞台の幕が切って落とされる」。

「7月(袋掛け、酢散布)――小さな果実は日ごとにふくらみ、期待もふくらみかける梅雨時。ハダニやアブラムシは葉を吸汁する。それらをアブの幼虫が食べる。運よく寄生蜂から逃れ生き延びたハマキムシのサナギは蛾になり飛翔する。おびただしい数の生と死によってエネルギーの放出と吸収が行われる」。「時折、深く生い茂った雑草の間から、野ウサギが小首をかしげています。春先には、かれらも野ネズミとおなじく、若木の樹皮を食害したりもしますが、豊富な下草に支えられて命をつなぎ、子が産まれると必死で子育てをします。いったい、この畑で何匹産まれて、草を食み、山へと帰っていったことでしょうか。下草を伸ばすということは、保水、保温性を高めて斑点落葉病を防ぎ、共生菌によってリンゴの生育に必要不可欠な養分を補給するだけではなく、昆虫が増え、それを食べる動物も増えるといったように、すべてが関係しているのです。果実が熟するころには、鳥たちもついばんでいきますから、そういったリンゴは加工に回せばいいのです。この栽培は、合理的に、完璧に管理するという気持ちではできないでしょう。あくまでも、リンゴの樹が元気に育つ環境のお手伝いをするのであって、その報酬として果実という収穫物をいただきます。わたしがつくっているのではなく、生きもの係というお手伝いにすぎません。だから、かかわるすべての生きものたちが優秀な社員であると考え、縦横無尽に働けるよう、いつくしみの眼差しをもって接したいと思うのです」。農業の本という枠を飛び越えて、哲学書、ビジネス書の雰囲気が漂ってくるではありませんか。

「10月(葉取り、玉回し、収穫)――岩木山が色づきはじめ、下草を刈った畑にも秋が訪れる。朝夕はめっきり涼しくなり、リンゴも色づきはじめた。収穫を間近にひかえ、玉回しに思わず顔がほころびる」。

「11月(収穫)――1978年に農薬をやめ、皆無作という絶望のトンネルの先に、1987年、ピンポン玉ほどの『ふじ』が2個なった。わたしは生涯忘れない。紅い結晶、命の結晶、希望の結晶」。

自然栽培の効果が挙げられています。①土壌微生物による栄養塩(窒素、リン酸)供給効果、②非病原性微生物による病害抑制効果、③作物以外の植物(雑草)による多様な環境創出効果、④天敵による害虫防除効果――の4つです。

「たとえ小さな畑でも、足元には宇宙のように未知なる世界が広がっているのです」という最後の一節は、とりわけ心に沁みますね。