女性MRが空間に漂う方法・・・【MRのための読書論(17)】
空間に漂う方法
あなたは、顔を見たくないほど人を嫌いになったことがありますか。明るく振る舞ってはいるが、人知れず人間関係で悩んでいるという人が意外に多い。世の中にはそれこそさまざまな悩みがあるが、人間関係の悩みほど人の心を湿らせるものはない。『クン氏のおだやかでラジカルな日常』(松本東洋著、河出文庫)が若い女性の間で読み継がれている現象も、人間関係の難しさと無関係ではないだろう。
人間関係のきしみに耐え切れなくなった時は、いったいどうすればよいのか。著者は「私はもう死んだ者だ。この世の者ではない」と試みに思ってみる方法を勧めている。軽く目を閉じて、背筋を伸ばして、体を楽にして、「私はもう死んだ者だ」と自分に言い聞かせる。そして、相手の心無い仕打ちによって深く傷ついたあの苦々しい場面を心のスクリーンに再現し、それを第三者の目で眺める。この時、いかにも死者らしくふわふわと空間に漂いながら、それもできれば天井の高さあたりから、自分と相手を見下ろすようにすることが、この方法を成功させるコツである。
この方法を一度でも試してみるとよく分かるが、下の方で展開されているやり取りを不思議なほど冷静かつ客観的に観察することができる。自分のみならず相手の心の動きやそのよって来る背景までが、手に取るようによく分かる。自分の欠点や至らなかった点も見えてくる。さらに一歩進めて、相手の立場をも思いやることができるようになるには、まだまだ相当な回数、空間に漂わなければならないだろうが、最終的にはこの境地に到達したいものだ。傷つきやすい心を持った人は、この「死者に変身し空間に漂う法」をしっかりと身につけて、辛い時期を何とか乗り切ってほしい。そして、周りに同じように苦しんでいる友がいたら、この方法をそっと伝えてほしい。
第三者の目で観察する方法
さらに、自分や相手を第三者の目で観察する方法に磨きをかけるには、『ZEROより愛をこめて』(安野光雅著、暮しの手帖社)が最適である。あるいは、これらの本の源流ともいうべき、子供向きに書かれた書として評価の高い『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著、岩波文庫)を読み返してみるのもいいかもしれない。
女性MRの悩みを解消する方法
医薬品業界では、近年、女性MRが存在感を増してきている。このような状況下で出版された『女性MRお悩み解消実用辞典』(岩田やよい著、医薬経済社)は、6年間のMR経験を有する先輩女性MRが後輩女性MRに、自らの経験、悩み、その解消法を率直に伝えたいという思いに満ちている。女性MRにとって必読の一冊と言えよう。
●自分の希望以外の地区に配属されてしまった女性MRには、「気持ちを切り替えて、配属期間を長期旅行と考えよう」と呼びかけている。先ずは担当地域の旅行ガイドブックを購入する。お薦めは旅行雑誌「るるぶ」(JTBパブリッシング)と、アドヴァイスが具体的で行き届いている。
●「もし、説明会で答えられない質問があったとしても動揺せず、次に訪問するネタにしてしまおう」という開き直り精神も、時には必要となる。
●「女性は朝、化粧して、髪整えてと支度に時間がかかるので、つい朝食は抜きがち。しかし、『朝食は金、昼食は銀、夕食は鉛』なので、炭水化物のものを1つ、食べて出かけるべし」と、女性ならではのアドヴァイスも。
●「いい上司に恵まれると仕事に対して積極的になり、希望が持てるようになる。いい上司に巡り合えるかどうかで、その後の仕事に対する思い入れや取り組み方が変わってくる。男性よりも女性にこの傾向が強い。ただ、残念ながら上司は選べない」。だからこそ、「あなたの心の中で絡まった糸をほぐしてくれる、困った時や行き詰まった時にそっと声をかけてくれるメンター(助言者)を探そう」と勧めている。
●この本は、「女性MRが配属になった男性MR・上司へ」というタイトルの一章が添えられているので、男性MR、上司にも薦めたい。
女性の心の成長を追体験する方法
『スコーレNo.4』(宮下奈都著、光文社)が女性読者の支持を受けているという。一人の女性の心の成長が瑞々しく描かれているので、共感を呼んでいるのだろうが、確かにこの小説は一読の価値がある。
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