榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

孔子に学ぶMRの行動指針・・・【MRのための読書論(35)】

【Monthlyミクス 2008年11月号】 MRのための読者論(35)

『論語』は処世訓

『論語』には、MRの行動指針に資するヒントが詰まっている。『論語』は、2500年前の孔子とその弟子たちとの問答集で、「儒教」と呼ばれるが宗教ではなく、現在でも十分通用する平明な処世訓である。

渋沢栄一にとっての『論語』

『論語』に直接挑戦するのは気後れするという向きには、『渋沢栄一 論語の読み方』(渋沢栄一著、竹内均編・解説、三笠書房)が最適である。自身の生涯に亘る座右の書であった『論語』について、渋沢栄一は、「『論語』のような役立つ学問は、青年諸君が座右の銘として学んでよい実学である。3000年前の古い学問だといってはいけない。諸君の足もとに起こる問題解決の鍵を『論語』は握っている」と述べ、青年必読の書としている。

一例を挙げれば、「過ちをどうフォロー、リカバーするかで人の値打ちは決まる」という箇所では、「子曰く、過って改めざる、これを過ちという(衛霊公篇)」を「人間、誰でも過ちはあるものだ。過ちに気がついてこれを改めることができれば、これはもう過ちではない。過ちをごまかして改めないことを、真の過ちという。そしてその過ちのもたらす災害を受ける。・・・過ちをさっさと改めるのを君子の道という。青年諸君に深く心がけてもらいたいのは、この君子の道である」と読み解いている。

「人生いちばんの楽しみをどこに求めるか」「心に『北極星』を抱く人の生き方」「自分の資質にさらに磨きをかける」「この心意気、この覚悟が人生の道を開く」「『一時の恥』にこだわって自分を小さくするな」「成功のカギ『先憂後楽』の生き方」「孔子の恐ろしいまでの『現実主義』」「ともに生きるに足る友、切り捨てる友」「自分への『厳しさ』に自信がもてるか」「孔子流の最高の『自己実現』法」といった章のタイトルからも分かるように、ビジネスパースンの大先輩が私たち後輩に諄々と言い聞かせる趣がある。

また、随所で述べられている、渋沢が直に接した、あるいは身近で見聞きした同時代の人物――西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允、山県有朋、伊藤博文、大隈重信、徳川慶喜、勝海舟、坂本龍馬、近藤勇、岩崎弥太郎、古河市兵衛など――に対する忌憚のない人物評が秀逸である。

渋沢栄一という人物

渋沢という人物を知るには、『渋沢栄一――人間の礎』(童門冬二著、学陽書房・人物文庫)がある。武蔵国(現在の埼玉県)の豪農の子に生まれ、過激な尊王攘夷思想から一転して徳川慶喜の側近となり理財面の才能を発揮する。明治維新政府で大蔵省の骨格を作り上げた後、官僚を嫌って実業界に移り、日本資本主義経済の偉大なる確立者、指導者となる。日本初の株式会社、日本初の銀行、第一国立銀行(現在の、みずほ銀行)、東京商法会議所(現在の東京商工会議所)の設立など、その業績は枚挙にいとまがない。渋沢が設立に関与した会社の数は500余りだという。「論語(道徳)とソロバン(経済)の一致」という彼の理念を一貫して実践した生涯であり、精神的なものと経済的なものを両立させたという点で日本第一の人物であったと思う。

五代友厚という人物

明治実業界の東西の双璧として、「東の渋沢、西の五代」と並び称された五代友厚も、なかなか味のある人物である。『士魂商才――五代友厚』(佐江衆一著、新人物往来社)によって、薩摩藩(現在の鹿児島県)の若き日の五代が幕末の激動期に何を考え、どう行動したのか、その後、明治維新政府を辞職し、実業家として、大阪商法会議所(現在の大阪商工会議所)初代会頭として商都・大阪の発展にいかに尽くしたかを知ることができる。

『論語』に直接挑戦

渋沢というフィルターを通さずに直接『論語』に挑戦したいという向きには、『論語』(貝塚茂樹訳、中公クラシックス、Ⅰ・Ⅱ巻)を薦めたい。読み下し文、原文、口語訳、注釈、内容解説の順で記載されており、分かり易さという面では、類書の中で群を抜いている。