榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ホームズならぬコナン・ドイル本人が解決した冤罪事件とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(379)】

【amazon 『アーサーとジョージ』 カスタマーレビュー 2016年5月11日】 情熱的読書人間のないしょ話(379)

今シーズンも、我が家にニホンヤモリが登場しました。キッチンの磨りガラスがヤモちゃん(我が家ではこう呼んでいます)の定位置で、キッチンの明かりが消えるまで長時間へばりつき、白い腹を見せています。庭の片隅ではジャーマンアイリスが2輪咲いています。近所の家では、こんなにたくさんのジャーマンアイリスが咲き競っています。散策中にアヤメもよく見かけます。「何れ菖蒲か杜若(いずれあやめかかきつばた)」という言葉がありますが、よく似ているアヤメ、カキツバタ、ハナショウブは生育地でおおよその区別ができます。アヤメは乾燥地、カキツバタは水辺、ハナショウブは湿地帯を好みます。隣家の白いバラは清楚な少女のようです。因みに、本日の歩数は10,035でした。

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閑話休題、『アーサーとジョージ』(ジュリアン・バーンズ著、真野泰・山崎暁子訳、中央公論新社) は、シャーロック・ホームズ・ファンには興味深い長篇小説です。ホームズならぬコナン・ドイルその人が実際に解決した冤罪事件がドキュメタリー・タッチで描かれているからです。

著名な推理作家、アーサー・コナン・ドイルと、アーサーより17歳年下で地味な事務弁護士であるジョージ・アーネスト・トンプソン・エイダルジの人生が交差するのは、1906年12月末のことです。ジュージは連続家畜殺しという冤罪で懲役7年の刑を宣告され、監獄に送られてしまいます。3年後に仮釈放されたジョージが面識のなかったアーサーに自分の無実を証明してほしいと依頼したことから、二人の関係が始まったのです。

「奴ら(アンソン警察本部長を頂点とするぼんくら州警察、裁判所、内務省)の目を覚まさせてやる。無実の人間をこんな目に遭わせたことを後悔させてやる」と、アーサーは怒りに燃えて、警察本部長との直接対決に立ち上がります。ジョージが仮釈放されたといっても、有罪判決が取り消されたわけではなく、投獄に対する謝罪もないからです。有罪判決が取り消されない限り、ジョージの弁護士資格は回復されないのです。

「あなたは私を探偵として雇うのではありませんよ、エイダルジさん。私はあなたに力をお貸ししたいのです。そして我々があなたの恩赦のみならず、不当な投獄に対する多額の補償金も勝ち取った暁には・・・」。「お金は重要ではありません。私は名誉を取り戻したいのです。事務弁護士として再登録したい。それだけが私の望みです。再び開業を許されること、平穏で有益な人生を送ることが願いです。普通の生活をすることがですね」。

警察の怠慢、不法を暴くべく、ホームズ張りの推理力と粘り強い調査によって、アーサーがジョージの無実を証明していく9カ月間の過程は、ミステリのようにスリリングです。

そして、アーサーは遂に真犯人の特定に至るのです。「今回、自分(ジョージ)に与えられた救済は、サー・アーサーの献身と努力、理詰めの論法、それにサー・アーサーが得意の『一騒動起こすこと』(=メディアの利用)を抜きにしては実現しなかった」。

「サー・アーサー、この胸にある感謝の気持ちは到底言葉では言い表せません――」。「表せなくてよろしい。私がこの仕事をしたのは君から感謝してもらうためではないし、君からはすでに十分に感謝してもらった。私がこの仕事をしたのは、君が無実の罪を着せられているからだし、まともに機能しないこの国の司法制度と官僚組織を恥ずかしく思うからだ」。事実、この冤罪事件は法曹界に大きな物議を醸し、司法行政改革に繋がっていくのです。

万一、コナン・ドイルがシャーロック・ホームズのように颯爽と事件を解決できなかったらどうしようという懸念は杞憂に終わり、ホッとしました。