本の帯は、「想像の読書」の発火点だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(435)】
散策中に、花弁が赤、桃色、白で染め分けられている花を見つけました。図鑑やインターネットで調べても分からないので、植物に造詣の深い柳沢朝江氏に尋ねたところ、ヴァーベナと判明しました。おかげで、すっきりしました。
閑話休題、『オビから読むブックガイド』(竹内勝巳著、勉誠出版)は、本の帯にスポットライトを当てたユニークな一冊です。
「販売プレゼンとして巻かれたオビは、いうまでもなく出版界と読書会を直結するコミュニケーション回路である。それゆえに制作者(多くは編集者)は、この小さな空間におおげさにいえば完成の喜びと販売の成功を願って命をかける。手垢の付いていない言葉を選び、一目で読書慾をくすぐる文法とデザインで仕立て上げる。一流の料理人が盛り付けに腕を振るう作法と似ている」。「オビは派手やかに顕彰や推薦の役も担うが、本来は個人の読書心に向かって語るプレゼンであった。読者からいえば『想像の読書』の発火点である、そして、読了顔の満足感で再びキャッチコピーを振り返るとき、読書の面白さ、ひいては自分の読者力の充実さが実感できるのである。つまりオビは『行ってまいります』から『お疲れさま』まで見守っている母なる存在なのです。紙の本の砦は崩れない」。
私の印象に残ったオビを並べてみましょう。
●「話せばわかる」なんて大うそ! やっぱり問題は「壁」だった。=『バカの壁』
●日本文学史最大の因縁=『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか――擬態するニッポンの小説』
●直木賞の「直木」とは誰なのか=『知られざる文豪 直木三十五――病魔・借金・女性に苦しんだ「畸人」』
●鳴く声は、いのちの燃える音に似て――=『蜩ノ記』
●生きることは罪ですか? 永遠の青春、その自画像=『憧』
●聖武帝には三人の娘がいた。ひとりは天皇に。ひとりは大逆罪に。ひとりは流罪に。=『天平の三姉妹――聖武皇女の矜持と悲劇』
●中上健次は、そこを「路地」と呼んだ 「路地」とは被差別部落のことである=『日本の路地を旅する』
●2022年12月31日までに原発全廃 福島の原発事故で一気に方向転換したドイツ。=『なぜメルケルは「転向」したのか』
●「ゆとり」+「くつろぎ」-「りくつ」=「ゆとろぎ」=『ゆとろぎ――イスラームのゆたかな時間』
●芭蕉に冷淡、蕪村は相手にせず、とことん一茶を追い続けた巨匠が、自由人としての魅力を語りつくす。=『荒凡夫一茶』
●1118年生まれの歌僧と武士 遁世か、武断か 中世日本人の二つの生き方=『西行と清盛――時代を拓いた二人』――まさしく、私などはこのオビに惹かれて、この本を手にしたのです。
いずれのオビも、うーんと唸らされる傑作ばかりです。
「本は著者の思いを一言で表現した『タイトル』と、それにふさわしい衣装としての『装丁』で舞台に立つ。それに読者への案内として『オビ』がつく。タイトル・装丁・オビの三位一体の相乗効果が本造りの基本戦略だと言われる。いっぽう造本面からみればオビは付属品であった。しかしこの特製付属品は読書慾を掻き立てて著者に真剣勝負を挑む要となっている」。この著者の主張を、本書に収められた豊富なサンプルが生き生きと証明しています、十分な説得力を持って。