榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

あなたの内なるロビンソン・クルーソーは元気ですか・・・【続・独りよがりの読書論(6)】

【にぎわい 2006年12月10日号】 続・独りよがりの読者論(6)

ロビンソン漂流記』(ダニエル・デフォー著、吉田健一訳、新潮文庫)の主人公、ロビンソン・クルーソーは第一級の経営者である。あなたが子供のころ、絵本か子供向けの本で読んだように、孤島にただ1人漂着したロンビンソンは、最初はやれやれ命だけは助かったと喜ぶが、だんだんとこれは大変なことになったということが分かってくる。しかし彼は挫けない。そして、1人でも生き抜いていけるように、非常に現実的な態度で生活建設を始める。難破船からいろいろな物を見つけてきて、それを島のさまざまな自然条件とうまく組み合わせて、人間らしく、といっても最小限のことだが、生き続けていくための生活条件を整えていこうとする。

ロビンソンは孤島で道具や資材を着実に計画的に収集し、それと自分の労働力とを合理的に組み合わせて、いわば経営体を作り上げている。すなわち、資産配分を実に合理的に実行している。しかも、そこから生まれてくる余剰の一部は蓄積して拡大再生産を行う。そのうえ、伝統にいつまでも縛られているような感傷はどこにも持ち合わせていない。つまり、彼にとって一番大切に思われたものは、金儲けではなく、人間らしい生活をしていくために必要な財貨をできるだけ効率よく生産すること、すなわち経営そのものだったのだ。

社会科学における人間』(大塚久雄著、岩波新書)の中で、大塚久雄はロビンソンをこのように高く評価しているが、この著者が自分の考え方の方向に私たちをぐいぐいと引っ張っていく力は相当なものだ。さらに、ロビンソンをそれぞれの立場から評価している2人の巨人――マックス・ウェーバーとカール・マルクスの思想のエッセンスもおのずと理解できるように仕組まれている。連続講演の原稿をそのまままとめたものなので、大塚久雄という得がたい最高の先生が私たちに直に語りかけてくる感じで、知的興味を満足させてくれる。

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驚くことに、このロビンソン・クルーソーには実在のモデルがいたというのだ。『ロビンソン・クルーソーを探して』(髙橋大輔著、新潮文庫)は、そのモデルの実像に迫った著者自身の探検記録である。1704年9月、スコットランドの船乗りアレクサンダー・セルカークは航海の途上で船長といざこざを起こしたため、南太平洋の無人島に1人置き去りにされ、絶海の孤島で4年4カ月に亘る孤独な生活を強いられる。イギリス船に助けられて帰国後、彼の話が人々の話題に上り、それを聞きつけたデフォーが、孤島での滞在期間をもっと長いものに変え、小説『ロビンソン漂流記』を書き上げたのである。

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十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ著、石川湧訳、角川文庫)の原題は『二年間の休暇』である。『ロビンソン漂流記』の愛読者であった著者が主人公を少年に置き換えた、少年のためのロビンソン・クルーソー物語である。無人島に漂着した15人の少年の2年間に亘る探検と生活が臨場感豊かに描かれているので、大人になって読み返しても、自分が彼らの仲間に加わったかのようにドキドキしてしまう。

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帆船バウンティ号の反乱』(ベンクト・ダニエルソン著、山崎昂一訳、朝日新聞社。出版元品切れ)は、1789年4月に南太平洋で起こったバウンティ号の反乱事件の事実を追究した本である。この事件は何度か映画化されているのでご存じの向きが多いと思うが、その後の正に「バトル・ロワイヤル」ともいうべき、恐るべき結末は意外と知られていない。

バウンティ号を乗っ取った反乱派は、イギリス政府の追及の手を逃れるために、南海の孤島ピトケアン島に上陸し、船を焼却してしまう。南海の楽園建設を目指して上陸したメンバーは、白人男性9人、ポリネシア人の男性6人、女性12人、女児1人であった。白人男性がそれぞれポリネシア女性を妻に選び、残ったポリネシア女性をポリネシア男性が共有の配偶者とした。間もなく白人男性の妻2人が死亡した時に、ポリネシア男性から妻を取り上げたために、ポリネシア男性の不満が一気に爆発する。以後、エゴイズムと相互不信が絡み合って、果てのない殺し合いが展開されることになる。女性の不足のほかに、ポリネシア人はこの島で土地所有権を与えられていないという問題も横たわっていた。結局、10年間に亘った流血と暴力沙汰の後で生き残ったのは、白人男性1人、ポリネシア女性9人、子供20人であった。現在のピトケアン島民は最初の上陸者たちの子孫であるが、幸いなことに温和な人々であるという。

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何もなくて豊かな島』(崎山克彦著、新潮文庫)は、南海の珊瑚礁の周囲2kmの美しい小島を退職金で買って移り住んだ著者の何とも羨ましい生活記録である。仕事に疲れた時、この本を手にすると、眼前にパーッとコバルトブルーの海が広がり、爽やかな風が吹き抜ける。

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私は長いことカナヅチであったが、いつの日か南の島で心ゆくまで泳ぎたいと一念発起。毎週1回、2ビーツのクロールでゆったりと連続で1000~2000m泳ぐことを、この18年間続けている。

これから水泳を覚えようという向きには、教え方が親切な『知識ゼロからのスイミング入門』(平井伯昌著、幻冬舎)、連続写真が鮮明で、説明が分かり易い『トップスイマーが教える水泳マスター』(高橋雄介監修、永岡書店)、80分のDVDが付いている『基礎からマスター水泳』(柴田義晴著、ナツメ社)をお薦めしたい。