榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

生きるも死ぬも紙一重の壮絶な戦闘に巻き込まれた自衛官たち・・・【情熱的読書人間のないしょ話(524)】

【amazon 『土漠の花』 カスタマーレビュー 2016年9月10日】 情熱的読書人間のないしょ話(524)

夜になると、秋の虫たちの鳴き声が賑やかです。このような夏の空ともそろそろお別れかもしれませんね。

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閑話休題、年下の親友Oから「戦闘小説だが、海外に派遣される自衛隊に起こり得るケースだから、ぜひ読んで、書評を書いてほしい」と強く薦められた『土漠の花』(月村了衛著、幻冬舎文庫)を手にしました。

アフリカの土漠(どばく)地帯・ソマリアの国境付近で墜落ヘリコプターの捜索救助活動に従事していた陸上自衛隊第一空挺団の野営地に、敵部族から命を狙われている現地人の若い女性が逃げ込んできたことから、12人の自衛官は命を懸けた壮絶な戦闘に巻き込まれていきます。

興奮の坩堝の中、一気に読み終わって感じたこと、考えたことが、3つあります。

第1は、集団的自衛権の行使に突き進んでいる日本にとって、これは小説に止まらず、現実に起こり得る悲劇だと、心が震えました。「気がつくと原田の生首が転がり、吉松3尉が射殺されていた。国際貢献のための海外派遣。やりがいのある仕事であると上からも周囲からも言われてきた。様々な危険の対処法についても日々訓練を積んできたが、こういう死に方は予想もしていなかった。陸上幕僚監部にとっても防衛省にとってもまったくの想定外だろう」。しかし、これは悲劇の始まりに過ぎなかったのです。「無念にも頭を撃ち抜かれた吉松隊長。首を斬り落とされた原田。抵抗する間もなく射殺された戸川と佐々木。なぶり殺しにされた徳本。そして――新開、市ノ瀬、梶谷、由利。皆戦場で勇敢に戦って死んだのだ」。一方、彼らに殺された敵の数は数え切れないほどです。さらに、敵の手にかかったその敵対部族の死者は数知れません。このように、敵に殺され、敵を殺す惨劇が延々と続く、これが戦争です。そして、「それらの悲劇の背後には、利権を求める大国の思惑がある」のです。

第2は、絶体絶命の環境で生き延びるとはどういうことか、襲いかかってくる敵を殺すとはどういうことか、仲間を救うために命を投げ出すとはどういうことか――を真剣に考えさせられました。「心を平静に保ち、極限まで集中する。これまでの訓練で積み上げてきた成果を、自分の持つ資質を、最大限に発揮するのだ。それが自分の任務である。人として、今日まで家族や仲間とともに生きてきた自分の」。「これは時間との戦いでもある。一秒を争う戦いの意味に、変転する戦況に、気づくのが遅れた方が死ぬ」。

第3は、次から次へと息を呑む、臨場感溢れるストーリー展開に、小説を読む醍醐味を存分に味わうことができました。わだかまりを感じている仲間と心が通じ合う瞬間。仲間意識が生み出す不動の使命感。共に生き延びようという強烈な仲間意識。仲間を救うために自ら死地に飛び込んでいく勇気――が心に迫ってきて、何度も涙しました。「友永は決断した。何かを躊躇していたら死ぬ。それだけは確信できた。『作戦変更だ。ただちに撤退する』。振り返った部下達に、決然と告げた」。「あいつ(梶谷士長)だけではない。友永曹長、新開曹長、朝比奈1曹、津久田2曹、市ノ瀬1士。みんな最高の男達だ。霞ヶ浦駐屯地の警務隊でなく、最初にこの男達と出会っていたら、自衛隊での自分の人生はまるで違ったものになっていただろう。少なくとも、高塚を見殺しにするような最低の人間にはならなかったはずだ。この仲間達と会えてよかった。たとえソマリアの地に果てるという運命が待っていたとしても」。

戦闘物を好まない人も含めて、全ての日本国民に読んでもらいたい作品です。