子の無い人生は、本当に不幸なのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(616)】
朝、我が家の上空に黄金の竜が現れました。その後、昼から夕へと天候が目まぐるしく変化した一日でした。足腰が弱り、現在のようには散策ができなくなっても、一日中、空を見上げて過ごす愉しみは残りそうです。因みに、本日の歩数は10,576でした。
閑話休題、『子の無い人生』(酒井順子著、KADOKAWA)は、著者が定義した「未婚、子ナシ、30代以上=負け犬」にぴったり当てはまる著者の、子無し人生に関するエッセイ集です。
専業主婦に対しては辛辣です。「今や専業主婦というのは、安定した仕事を持って高収入を得る夫を持たなければ就くことができない、特権的な地位です。しかし専業主婦の人達というのは、自分が恵まれているということを、いま一つ理解していないことが多い。彼女達は、『妻も働かなくては食べていけない』という家庭があることを、理解していません。また、『社会で働くことが大好き』という女性がいることにも、ピンときていない様子」。「今後、『子産みをせずんば女にあらず』という風にはなってほしくないなぁと、私は思う者。『女にとって最も重要なことは』とか『男にとって最も重要なことは』といった考えは、多くの人を生きづらくさせるのですから」。
不妊治療の考察には、著者周辺の豊富な実例が生かされています。「既婚で不妊治療を頑張っていた友人達も、40歳を過ぎると次第に、『もう、いいかな』という気持ちになってきたようです。もちろん世の中には、40代以降も望みを捨てずに治療を続ける人もいます。・・・『諦めない人』には、真面目な人が多いのです。真面目に『子供が欲しい』と言い続けたからこそ男性達は及び腰になり、また真面目に仕事をしてきたからこそ妊娠の機会も減り、そして出産のリミットが近づけば、真面目に『女として産まれたからには子供を産まねば』と思い続ける。・・・産みたいと熱望する人が産めず、それほどでもない人が簡単に妊娠する。そんな事態を見ているだけでも、世の中に思い通りに行くことなどそうは無いのだなぁと、よくわかるのでした」。本当に、妊娠という奴は気まぐれですね。
『源氏物語』に対する著者の見方はクールかつユニークです。「どれほど男から愛されていようと、子を産んだ女にはかなわない。・・・という事実を冷徹にそしてえげつなく描いたのは、作者の紫式部が女性であったからでしょう。彼女は平安の貴族社会において、子産みにまつわる様々な物語を目にしたに違いありません。・・・子を産んだか否かで明暗が分かれる、女の人生。『子供』という強力な存在は、愛だの情だのという目に見えないものを、簡単に吹き飛ばしてしまう。・・・という事実から『目を逸らすな』と、紫式部は後世の女達に伝え続けています」。光源氏の現地妻であったが、産んだ娘が未来の天皇の母になるという幸運を掴んだ明石の君の「明」と、数多いる女性たちの中で光源氏に最も愛されながら子を産むことなく40代で病死してしまった紫の上の「暗」が対比されているのです。