死ぬのは後から来る人のために場所を空けておくことだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(653)】
輝く朝日を目にすると、よし、今日も、読むぞ・書くぞ・歩くぞ・撮るぞと、私の4大欲望がむくむくと頭をもたげてきます。散策中に、黄色い花を穂状に咲かせたマホニア・チャリティ、真っ赤に紅葉したナンテン、赤い冬芽を付けたドウダンツツジ、片足を上げたツグミを見かけました。因みに、本日の歩数は10,507でした。
閑話休題、安野光雅は私の敬愛する画家・エッセイストです。『本を読む』(安野光雅著、山川出版社)は、著者の体験を踏まえた読書に関するエッセイ集です。著者に強い影響を及ぼした34の本が取り上げられていますが、明快な文章と、安野自身の手になるカラーの挿し絵が相俟って、安野らしい素敵な著作に仕上がっています。
いずれの章も味わい深いのですが、とりわけ、私の印象に残ったのは、「死ぬのは後から来る人の為に場所を空けておくことだ――モーム『人間の絆』」の章です。
「今日も、『いつまでも若く、美しくいられるための方法はないだろうか』という人があった。・・・実人生に、老いぬものはない。老いてあたりまえで、年より若く見えたところでなにほどのことがあろう。ただひとつ若々しくあるための方法があるにはある。本を読んでこころを磨き、あるいは鍛え、こころのなかを充足し、人知れず自分の誇りを持つことではあるまいか。・・・『人間の絆』はかならず得るところがあると思うので、ぜひ一読をおすすめしたい。・・・誰でも死ぬ。例外はない。死ぬのは後から来る人のために場所を空けておくことだ」。
「わたしはサマセット・モームを尊敬している。岩波現代文庫の行方昭夫『モームの謎』を読んだので、小説の世界と現実の世界に分離しがちなモームの最期のことを書きたい。わたしも80をとっくにすぎ、往年の元気が薄れて行きつつある」。
『人間の絆』と『モームの謎』を読みたくなってしまいました。
本書には、1つだけ、気になる箇所があります。「運命の神は、何と意地悪なのでしょう――リルケ『ポルトガル文』水野忠敏訳」の章で、『ポルトガル文』について、「これはフィクションではなく、真実の手紙であり、心中の壮絶な悩みを吐露したものである」と記されているからです。この『ポルトガル文』は、長いこと、実在した女性が書いた本物の手紙と信じられてきたのですが、1962年に至り、ガブリエル・ジョゼフ・ド・ギュラーグというフランスの男性貴族によって書かれたことが証明されているのです。私には、残念ながら、このことを著者に伝える伝手がありません。