ヴェネツィアの仮面には、心をときめかす妖しい力がある・・・【情熱的読書人間のないしょ話(685)】
散策中、ツグミとハクセキレイから直視されてしまいました。クリスマスローズが俯き加減に花を咲かせていますが、さまざまな色の花弁に見えるのは萼です。因みに、本日の歩数は10,466でした。
閑話休題、『ヴェネツィアの仮面カーニヴァル――海に浮く都の光と陰』(勝又洋子著、社会評論社)では、イタリア・ヴェネツィアの仮面カーニヴァルの歴史と現在が考察されています。
「地中海世界を舞台とした東方交易で、栄華を極めたヴェネツィア共和国は、フランス軍のイタリア侵攻で、1779年に崩壊した。『世界で最も美しいサロン』と、ナポレオンに賞賛されたサン・マルコ広場。しかしこの広場を大舞台に繰り広げられた仮面カーニヴァルは、彼の命により禁止された。ファッショナブルな仮面と衣装で世界に知られるヴェネツィアの仮面カーニヴァルが再開されたのは、共和国の終焉から200年を経た20世紀後半である」。
仮面カーニヴァルは「幻想的な中世都市を舞台に仮面劇さながらの光景が繰り広げられる」。
「カーニヴァルの開催される期間、ここでは誰もが主人公になれる。この時だけは王様にも女王様にもなることができる」。
「仮面は光と陰を映し、ヴェネツィア共和国1千年の歴史へ人々を誘う」。
「仮面は素顔を隠すという特性があり、男女の区別だけではなく、社会的な立場や階層など個人のもつ情報を覆い隠してしまう。仮面と仮装は身体を覆い隠すだけでなく、別の外的人格を表すために変身願望への傾向を強めたのだ。別人に成り代わることで社会の秩序から逸脱し、個人ではあっても匿名化した集団から生成される熱狂が秩序やシステムに対する反抗のエネルギーに高まることを支配層は恐れた。祭りやカーニヴァルの無礼講は、庶民の日頃の不満をこうしたエネルギーに転化して解消させる機能を持っている。カーニヴァルにおける仮面の使用は、日頃抑えられているストレス感情の解放につながり、社会秩序を揺るがしかねない危険な装置となった」。仮面・仮装は、庶民の変身願望を満たすアイテムであるだけでなく、支配者にとっては庶民の不満発散装置という役割を担っていたのです。
本書を読んで、何度か訪れたヴェネツィアを懐かしく思い出してしまいました。その時、求めたさまざまな意匠の小さな仮面たちは、私の書斎の棚に鎮座しています。