榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

たった一つの細胞から数十兆の細胞で組織された人体へのプロセスの驚異・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1457)】

【amazon 『人体はこうしてつくられる』 カスタマーレビュー 2019年4月16日】 情熱的読書人間のないしょ話(1457)

千葉・柏の「あけぼの山農業公園」では、さまざまな色合いのチューリップたちの一大スペクタクルが展開されています。因みに、本日の歩数は10,398でした。

閑話休題、『人体はこうしてつくられる――ひとつの細胞から始まったわたしたち』(ジェイミー・A・デイヴィス著、橘明美訳、紀伊國屋書店)は、一般向けに、分かり易さを重視して書かれた発生学の入門書です。

誰もが辿ってきた驚くべきプロセス、私たちをたった一つの細胞(受精卵)から数十兆の細胞で組織された人体へと導くプロセスを研究するのが、発生学です。著者は、発生という巨大プロジェクトの不可欠な要因として、●細胞同士のコミュニケーション、●あるプロセスの結果がフィードバックされて、そのプロセス自体を制御する「フィードバックループ」になっているシグナル伝達、●後からできるメカニズムがそれ以前のメカニズムを内包する「入れ子構造」(この「入れ子構造」のおかげで、細かい事象も滞りなく進んでいく)――の3つを挙げています。

個人的に、とりわけ興味を惹かれたのは、老化について述べられた箇所です。「損傷・消耗した細胞の交換が必ずしも完璧ではなく、徐々にダメージが蓄積してしまうという不具合、要するに『老い』である。小さくて単純な生物のなかには老いないものもあるのに、なぜわたしたちは老いるのだろうか。これについてはさまざまな説があるが、その一つは、わたしたちの体内では放射線、遊離基(対をなさない電子をもつ不安定な原子、フリーラジカルとも)、毒などによるランダムな損傷が細胞分裂で修復・希釈されるよりも速く蓄積されるから、と説く。多くの幹細胞が元気であっても、大半の組織が劣化してくればメンテナンスにも支障が出る。損傷を受けた細胞がおかしなシグナルを出して修復プログラムを混乱させることもあれば、細胞間にあるタンパク質が架橋結合して邪魔をすることもあり、メンテナンスも完璧にはいかなくなる。しかもこの種の問題はゆっくりと、だが着実に蓄積されていき、最初は小さなつまずきでも、一つのつまずきが次のつまずきを呼ぶので修復は加速度的に難しくなる。つまり時とともに老化は速度を増す。やがて蓄積が深刻な度合いになり、腎臓や心臓といった体の基盤を支えるシステムに影響が出るようになると、体内環境はもはや正常とはいえなくなり、修復はますます困難になり、体は急速に劣化していく」。

「ヒトの化石記録によれば、ホモ・サピエンスが他のヒト科の動物とはっきり区別できるようになったのはわずか数十万年前のことで、場所は捕食者だらけのアフリカだった。わたしたちの祖先はその数百万年前からすでに道具を使っていたが、それでも他の類人猿とほぼ同程度の捕食リスクにさらされていたと考えられる。状況が変わったのは1万年前に始まる新石器時代の技術革新以後のことで、1万年といえばわずか500世代分、進化の上ではごく短い時間でしかない。ということは、わたしたちの活力と長寿への投資配分は、祖先がアフリカの平原でさらされていた捕食リスクから決まったもので、それを今なお受け継いでいるのかもしれない。今日、幸運にも先進国で暮らす人々にとっては捕食リスクなどないようなものだし、病気リスクもかなり低い。だが長寿への選択圧は特に見られず、投資配分は変わっていない。・・・わたしたちが生まれながらにもつメンテナンスシステムは『100歳を超える人はごく一部』という仕様であり、それを変えることはできないだろう」。