昆虫たちが繰り広げる生態の驚くべき世界・・・【情熱的読書人間のないしょ話(733)】
我が家の庭で、総苞が赤いハナミズキが咲き始めています。あちこちで、総苞が白いハナミズキが咲いています。カリンの薄桃色の花は気品のある淑女の趣です。タチツボスミレがひっそりと静かに薄紫色の花をまとっています。さまざまな色のチューリップが咲き競っています。因みに、本日の歩数は10,869でした。
閑話休題、『珍奇な昆虫(オールカラー版)』(山口進著、光文社新書)を開くと、昆虫たちの生態の驚くべき世界が広がっています。
「50年以上も地球を歩いてきて、昆虫たちから学んだことのひとつに『タフさ』がある。うまく環境に適応し、逆らわず、厳しい変化にも黙って耐える。それは人間が失ってしまった生物としての基本的な能力のひとつではないか。彼らの生き様を学ぶことは、いまを生きる私たちにも大きな意味があるはずだ」。
とりわけ興味深いのは、翅の色と輝きでコミュニケーションを行うクワガタムシです。ニューギニア島の高地に棲息するパプアキンイロクワガタ(以下、パプキン)は、美しい金属光沢のある体色――緑色系、青色系、赤胴色など――を有しています。「夜行性のクワガタが多い中、パプキンは異色ともいえる昼光性のクワガタムシなのだ。しかも、1日のうち太陽光が照り付け気温が高い午前10時前後に最も活動的になる。それゆえ曇りの日や、日が陰ると一切行動をやめる。翅を最も輝かせるための直射日光がパプキンの活動には必要なのだ。この果てしなく広い環境の中で仲間を見つけることは至難の業だが、金属光沢を利用することでその困難を克服しているのだろう」。雄は、この構造色(多層膜の外皮に光が反射することで生まれる特殊な色)で雌を呼び寄せ、ベニバナボロギクの草汁を分け与え、雌が吸汁している間に交尾に及ぼうという戦略を採用しているのです。
チリに棲息するチリクワガタ(コガシラクワガタ)は、ダーウィンに性淘汰の概念のヒントを与えたクワガタムシで、現在では「ダーウィン・ビートル」と呼ばれています。「大あごが異常に長いオスに比べ、メスのあごは一般的なクワガタのメスと変わらない。オスの大あごは不必要と思えるほど長く発達している。これを見たダーウィンは、メスを巡るオス同士の戦いが、あの必要以上に大きく長い大あごを発達させたというのだ」。「チリクワガタのオスはすぐにけんかを始める。メスが樹液に夢中になっている時に、2頭のオスが接近すると、まず大あごを誇示し合う。自分のほうが立派だと言わんばかりに体を起こし大あごを広げる。この時に大きな音を立てる。しばらくこの状態が続くと、いきなり接近して大あごを烈しく絡ませ、相手の下に潜り込み、木から引きはがそうとする。・・・大あごの噛む力は強くはないが、持ち上げる力と、大あごの必要以上とも思える長さがあれば闘争には有利なのだ、勝った個体は樹液を吸うメスに近づき交尾をする」。
オオカバマダラは大型でオレンジ色の美しいチョウで、大陸を縦断します。北アメリカから中米へ、その移動距離は3000キロメートルを超えるというのです。「オオカバマダラはアメリカ南部で4月に最初の世代が卵を産み、約1カ月後にチョウになる。その後、北上を続けながら5~6月になると第2世代が生まれ、続く7~8月に第3世代が生まれる。最後となる第4世代が生まれるのが秋9~10月で、このころは主にカナダやアメリカ北部で生活している。チョウたちは秋の日差しの中、交尾もせず花の蜜を吸い続けるのである」。
「1970年になって、北アメリカではオオカバマダラの行く先を突き止めようと、チョウのマーキングが盛んに行われた。チョウを捕獲し、翅に場所と日時を記したタグを張り付けふたたび放すのだ。人々は何万頭というチョウにマーキングし、チョウがどこで発見されるかを楽しみにした。しばらくして、そのうちの数頭がメキシコのミチョアカン州アンガンゲオで発見されたのだ。これでオオカバマダラは東シエラマドレ山脈に沿って南下し、大越冬地にたどり着くことがわかった。この山にオオカバマダラが集結していたのだ。9月から10月にかけ、オオカバマダラは北アメリカからメキシコへ3000キロメートルを超す大移動を敢行しているのだ」。「標高3000メートルの厳しい環境で越冬を終え、生き残ったオオカバマダラは3月半ばごろから北に向かって移動を始める」。
本書によって、昆虫の世界は奥が深く、驚異に満ちていることを再認識させられました。