榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

アドラーの研究者&『嫌われる勇気』の著者・岸見一郎の読書体験・・・【MRのための読書論(160)】

【ミクスOnline 2019年4月15日号】 MRのための読書論(160)

読書

本をどう読むか――幸せになる読書術』(岸見一郎著、ポプラ新書)では、アルフレッド・アドラーの研究者、『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)の著者として知られる岸見一郎の読書体験が語られている。

「本を読むと幸せになれるかどうかはわかりません。しかし、私自身は本を読む喜びや楽しみを知っているので、本を読むことで間違いなく幸せな人生を送ってこられたと思っています。・・・私は本を読むことは他の何かの目的のためにされることではなく、ただ楽しいから読むというのでいいと考えています。・・・本はまた人と人とを結びつけます」。ここに、著者の読書に対する考え方が凝縮しているが、私も読書のおかげで幸せな人生を送ってこられた一人だ。

インプット

●本を読めば他の人の人生を追体験することができます。自分の人生で経験できることには限界がありますが、本を読めば自分が知らない様々な生き方があることがわかります。他の人の経験したことを知ることが自分自身の生き方を見直すきっかけになって、自分の人生経験を広げることになります。また、本を読んで自分とは違う考え方を知ることによって、寛容になることもできます。

●絶望に打ちのめされ、生きる意欲も失っていたニーチェがある晩秋の日、ライプツィヒの古本屋の店頭で一冊の本を手にしました。この本を買って帰れというデーモンのささやきが聞こえました。なけなしの金をはたいて本を手に入れたニーチェは、それから2週間、夜はいやいやながら2時に床に入り、朝はきっかり6時に床を離れ、憑かれたもののように読みふけりました。この本とはショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』であり、この本との出会いが後年のニーチェの思想を作り上げることになりました。シューペンハウアーはまるで私のために書いておいてくれたかのようである、とニーチェはいっています。本とのそのような幸せな出会いが生涯において何度あるでしょう。――私の場合は、高校生の時、出会った『友情』(武者小路実篤著、新潮文庫)が、文学に対する目を開かせてくれ、恋愛の素晴らしさを教えてくれたのである。

●読書は生きることと同じであって、目的地に着くことが目的ではありません。生きることの目的地が死であるなら、いち早く死ねばいいかというと、もちろんそんなことはありません。どこにも到着しなくていいのです。途中で休むこともできますし、途中でその旅をやめることも可能です。とにかく、過程を楽しまなければ読書は意味がありません。――いかにも岸見らしい譬えである。

●今は本をたくさん読み、著者が何をいっているかを知るためだけに本を読むのではなく、自分で考えるために本を読むことが多くなりました。それをノートや時には本のページの片隅に書き留めるようになりました。――私も、気に入った文章、疑問に思った箇所、参考文献などは、ノートに書き写すようにしている。

●梅棹忠夫の分類でいえば、追随的読書ではなく、批判的読書、つまり著者の考えを鵜呑みにするのではなく、本当にそうなのかと考えながら読むことが大切ですが、批判以前にこの本で著者が何をいいたいのかを理解するのが先決です。そのために、私は『まえがき』と『あとがき』を丁寧に読むようにしています。――私は、著者のプロファイル、あとがき、まえがき、目次、本文の順で読んでいる。

アウトプット

●本を読むだけでなく書いてみれば、どれだけ理解できているかがわかります。・・・自分で考えられるようになるためには、読むよりも書くことが必要になってきます。・・・書くことと本を読むことの関係についていえば、それを発表するか否かは関係なく書くことによって、本を読む姿勢が変わってきます。自分で考えることによって本を読む時も受動的に本の中身を理解しようとするのではなく、著者の考え方を自分で検証してみたり、著者の考えに触発されて自分で考えるようになるからです。――気軽に書いて発表する一法として、私も行っているamazonのレビューに読後感を投稿することを、一度、試してみては?

●ドストエフスキーが小説の原稿を口述筆記していたことを知って、だから長編小説を書けたのだと納得しました。筆記した妻はさぞかし大変だったでしょうが。その点、スマートフォンやパソコン(の音声入力)なら文句をいわれることはありません。

●誰かから強いられてではなく、本を読み、それに触発されて何かを思いつき、それを文章にまとめていくのは私にとっては至福です。――全く同感だ。

読書歴

著者が、これまでの人生で影響を受けた本が紹介されているが、その中から、いつくかを挙げておこう。『若い詩人の肖像』(伊藤整)、『人間の運命』(芹沢光治良)、『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)、『霧の聖マリ』(辻邦生)、『知的生産の技術』(梅棹忠夫)――これらの本から、私も大いに刺激を受けたことを懐かしく思い出す。