名著の誉れ高い『理科系の作文技術』は、文科系の人間にも役に立つ・・・【MRのための読書論(162)】
推薦図書
『IT研究者のひらめき本棚――ビブリオ・トーク:私のオススメ』(情報処理学会 会誌編集委員会編、近代科学社)では、読むべき本として、『理科系の作文技術』(木下是雄著、中公新書)を薦めている。「仕事の文書を書くときの心得は、●主題について述べるべき事実と意見を十分に精選し、●それらを、事実と意見とを峻別しながら、順序よく、明快・簡潔に記述する――ことに要約される」と紹介されている。
『経済学者の勉強術――いかに読み、いかに書くか』(根井雅弘著、人文書院)でも、書き方の参考書として、『論文の書き方』(清水幾太郎著)、『文章読本』(丸谷才一著)と並んで、『理科系の作文技術』を挙げている。「学者の世界では、木下是雄『理科系の作文技術』が評判が高い。『理科系』というよりは、学問的・科学的に論理展開がしっかりした文章を書けということだが、この本は、想像するに、日本語から簡単に英語に移せるような文章を書けと言っているようにも思える」。
上記を含め、多くの識者が名著、読むべき本として挙げる『理科系の作文技術』を手にした。38年前に出版された書物であるが、現在でも十分役に立つ実践的な内容であり、理科系はもちろん、文科系の人間にも大変参考になると実感した。
明快・簡潔な文章
●一文を書くたびに、その表現が一義的に読めるかどうか――ほかの意味にとられる心配はないか――を吟味すること、●はっきり言えることはスパッと言い切り、ぼかした表現(・・・といったふうな、月曜日ぐらいに、・・・ではないかと思われる、等々)を避けること、●できるだけ普通の用語、日常用語を使い、またなるべく短い文で文章を構成すること。
「まぎれのない文―― 一義的にしか読めない文、意地わるく読もうとしてもほかの意味にはとれない文――を書くにはどうすればいいか。私自身は、一つの文を書くたびに、読者がそれをどういう意味に取るだろうかと、あらゆる可能性を検討することを自分に課している。二通りに取れる場合には、『どちらに取られてもいい』と妥協することも絶無ではないが、まず必ず書きあらためる」。著者と同じ検討・書き直しを、私も日々、実行している。
文書の役割
「筆をとる前に、また書き上げたものを読みかえす前に、いったい読者はこの文書に何を期待しているはずかと、一瞬、反省してみることを勧める」。
一文書一主題
「一つの文書は一つの主題に集中すべきものだ。別の主題が混入すると、読書に与える印象が散漫になり、文書の説得力が低下する」。執筆中に新たに気づいた別の主題は、別の文書としてまとめるべきというのだ。
材料集め
その文書で言うべきこと、書くべきことの材料を集めたら、それらを見渡せるように並べることを、著者は勧めている。「それは、●必要なことを書きおとす危険をへらし、●また補助材料を利用して表現を豊かにし、説得力を増す――のに役立つからだ」。
重点先行主義
「私は、仕事の文書はすべて重点先行主義で書くべきものと考える。みじかい文書には著者抄録に相当するワクはないが、内容にピッタリの表題をえらび、表題か、あるいは書出しの文を読めばその文書に述べてある最も重要なポイントがわかるように配慮すべきである」。文書のタイトルが読み手に読みたい気を起こさせるか否かは、文書の内容に負けず劣らず重要と、私も考えている。
序論
●読者が本論を読むべきか否かを敏速・的確に判断するための材料を示し、●また本論にかかる前に必要な予備知識を読者に提供する。
記述の順序
●どういう順序で書くかを思い定めてから書きはじめ、途中でその原則をおかさないこと、●どうしても原則を守れなくなったら、いさぎよく方針を立て直して最初から書き直すこと。
「読書として私がいらいらさせられるのは、一定の順序がなく思いつくままに書かれた(としか思えない)記述・説明文である。とくに、同じもの、あるいは密接に関連するものに関する記述がなんの断りもなくあちこちに散らばって出てくる文章を読まされると、腹が立つ」。
事実と意見
「主張のあるパラグラフ、主張のある文書の結論は『意見』である。筆者の気持として、結論である意見を手っ取り早く書きたいのは当然だが、意見だけを書いたのでは読者は納得しない。事実の裏打ちがあってはじめて意見に説得力が生まれる。事実の記述は、一般的でなく特定的であるほど、また漠然とした記述でなくはっきりとしているほど、抽象的でなく具体的であるほど、情報としての価値が高い。また読者に訴える力が強い」。事実によって意見を裏打ちするやり方、事実を一般的でなく特定的・具体的・明確に述べるやり方が、実例によって説明されている。
文は短く
「私の考えでは、本質的な問題は文を頭から順々に読み下してそのまま理解できるかどうかであって、すらすらと文意が通じるように書けてさえいれば、長さにはこだわらなくていい;ただ、長い文はとかく読みかえさないと判らないものになりがちだから、『短く、短く』という心得が強調されるのだと思う」。
●まず、書きたいことを一つ一つ短い文にまとめる。つぎに●それらを論理的にきちっとつないでいく(つなぎのことばに注意!)。●いつでも「その文の中では何が主語か」をはっきり意識して書く。
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