荻生徂徠と人情豆腐屋の、何とも、いい話・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1735)】
散策中に、外側の花弁が黄色で内側の花弁は茶色いロウバイを見つけました。よく見かける、外側の花弁も内側の花弁も黄色いソシンロウバイは園芸品種です。ニホンズイセンが芳香を漂わせています。ハシブトガラス、ヒヨドリをカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,028でした。
閑話休題、『講談えほん 徂徠(そらい)どうふ』(宝井琴調文、ささめやゆき絵、福音館書店・日本傑作絵本シリーズ)は、大人も楽しめる絵本です。
「江戸のむかし、元禄という時代のおはなしでございます。芝の増上寺の近くにかずさ屋七兵衛というはたらき者のとうふ屋がおりました」。
「『エーだんな、おはようございます。とうふ屋でございます』、『うん、一丁くれんか』。おさむらいが出したお皿にとうふをのせると、おさむらいはしょうゆがないのか、なにもつけず、そのまま、あっという間に食べてしまいました。『とうふ屋、世の中にとうふほどうまいものはないなあ』。『へい、ありがとうございます』。・・・『とうふ屋、こまかいお金がないから、あとではらう』。『へ、へい、よろしくおねがいします』」。
「『だんな、いつもありがとうございます。今日で五日、しめてとうふ五丁、ちょうど二十文でございます』。『とうふ屋、こまかいお金がないから、あとでまとめてはらう』」。
「『あの、だんな、ちょっと家の中を見せてくださいよ』。七兵衛さんが家の中をのぞくと、『わーっ、本ばっかり。わかった、だんなは学者さんですね。勉強ばっかりしてお金がないんだ! だったらこの本を売って、はらいっぱい食べて、だんなが世の中に出てから買いもどしゃいいのに』。『本はわしにとってたましいだ。たましいを売るわけにはいかん』。『・・・気に入った! じゃあ、こうしましょう。だんなが世に出るまで、毎日にぎりめしを持ってきますよ』」。
「『ことわる!』。・・・ということで、七兵衛さんは毎日おからをしょうゆで煮つけて持っていきました」。
「七兵衛さんが(だんなの長屋から)がっかりしてもどると、なんととなりから出た火事で(とうふ屋の)店が丸やけになっていたのです」。
ひと月ばかりたった時のことです。「『七兵衛どののおかげで世に出ましたぞ。先におわたしした十両、ここにまた十両、いただいたとうふのお代でざる』。『じょ、じょうだんじゃない。とうふの代金は二十文、二十文でございますよ』。『いや、あの時のとうふで命が助かった。こまっている時に助けてもらったことは、お金にはかえられん。あの時のとうふは宝物でござった。世の中に出てみれば、人を人と思わぬような者もおれば、はらわたがにえくりかえるようなこともござる。そんな時は、ひややっこを食べるようにしておりまするぞ』」。
「このおさむらいは荻生徂徠という人でした。徂徠さんは、このあとますます有名な学者となりました。 七兵衛さんの店のとうふを塩もしょうゆもつけずに食べると、徂徠さんのようにりっぱになれる、また、おからを食べると大きな家に住めると大ひょうばんになりました」と、結ばれています。
何とも、いい話ですねえ。私の好きな荻生徂徠、本、豆腐が勢揃いとは、これはもう、堪りませんな。