誰の人生にも悩みは付き物であること、悩みを解決するにはどうしたらよいのか――を、しみじみと考えさせる作品・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1983)】
ガのオスグロトモエの夏型の雄(写真1)、ヒメアカタテハ(写真2)、ツマグロヒョウモンの雌(写真3、4)、アカボシゴマダラ(写真5)をカメラに収めました。キバナコスモス(写真6、7)が花を咲かせています。ジュズダマ(写真8、9)が花と実を付けています。フウセンカズラ(写真10)が実を付けています。カキの実が色づいてきました。
閑話休題、「読書クラブ 本好きですか?」の仲間・中村陽一氏に薦められた『アシスタント』(バーナード・マラマッド著、加島祥造訳、新潮文庫)を多仁しました。このように未知の作家、作品に出会えることは、読書会、読書クラブの大きなメリットの一つです。
ユダヤ人のモリス・ボーバー、60歳は、51歳の妻・アイダとアメリカ・ニューヨークの貧しい地区で貧乏臭い食料品屋を営んでいます。同居している23歳の娘・ヘレンは、婦人用下着会社で秘書として働き、給料の一部を家に入れています。
「彼(モリス)と幸運とは、敵同士とまでいかぬにしろ、どうも仲がよくなかったからだ。彼は長い時間を働いた。正直そのものだった――自分の正直に縛りつけられ、いわばそれが彼の心の底に深く根を張っていたとも言えて、だますことなど大きらい――それでいてだまされるほうは一人前で、他人のものは決してほしがらず、だから自分はますます貧乏になっていった。懸命に働けば働くほど――まるでその労働は時間をつぶすための単なる儀式のようで――かえって得るものが減ってゆく」。
ある晩、モリスは押し入ってきた二人組の強盗に襲われます。
ふらりと現れた、フランク・アルパインと名乗る青年が店員に雇ってほしいと頼み込みます。孤児院育ちの25歳で、西部から流れて来たイタリア人です。
住み込み店員となったフランクは、なかなか商売上手で、店の売り上げは少しずつ増加していきます。そして、店主に隠れて売り上げの一部をポケットに入れるようになります。
フランクは美しいヘレンに惹かれていくが、ヘレンは裕福なユダヤ人青年、ナット・パールと付き合っています。そして、ヘレンは大学進学の夢を捨てられずにいます。
最初は嫌っていたフランクのよさに気づいたヘレンの心に変化が訪れます。「ヘレンは、強い疑いを持ちつつも、彼に恋心を覚える自分を感じた。・・・彼女の唇は開かれた――彼の熱したキスから、自分の長いこと望んでいたものをすべてを吸いこんだ。それでいて、この最も甘美な喜びの瞬間に、またも疑惑を感じた。それは不愉快な感じであり、そのために悲しくなった。悪いのは彼女のほうだった。これは彼女がまだ本当には彼を受け入れていないからだ。まだどこかでノーの信号がまたたいているのだ」。
「過去の汚点を一拭いで消し去るために、彼(フランク)は強盗に加わったことをモリスに告白しようとまたも思いはじめた」。
暴漢に襲われているヘレンを救ったフランクは、この機を逃すまいと、ヘレンへの募る思いを遂げようとするが、ヘレンに厳しく拒絶されてしまいます。
雪掻きが原因で肺炎に罹ったモリスは、3日後、病院で死に、翌日、埋葬されます。
「彼女(ヘレン)に話しかけ、彼(フランク)の計画を話すこと、これは素晴らしかったが同時に恐ろしくもあった。言いたいことは常に暗記していたが、言い出すのは非常にむずかしかった。二人の間にあのようなことが起ったあとであり、彼女に話しかけるのは不可能に思われた――それは危険や恥や、肉体上の苦痛にもつながりかねないことだ。話しかける最初の言葉、魔術のような効果のある言葉はないものだろうか? 自分にはとても彼女を納得させる力はないと絶望を感じた。彼女の冷やかで、自分に犯された存在で、心は動かず、たとえ動いたとしても、それは彼への軽蔑感でしかない。今では自分の口でさえ言えないようなあの行為をどうして思いついたりしたのかと、彼は自分を呪った」。
最後の最後に、フランクとヘレンの間に新しい展開が期待できそうな数行が置かれ、物語は幕を閉じます。
モリスの悩み、アイダの悩み、ヘレンの悩み、フランクの悩みは、それぞれ内容が異なるが、誰の人生にも悩みは付き物であること、悩みを解決するにはどうしたらよいのか――を、しみじみと考えさせる、得難い作品です。